シニアプラットフォームと介護レクリエーション

一方で貴社はヘルスケアビジネスも手掛けられています。シニアプラットフォームを標榜されてもいますね。

伊藤 そうです、当社は一方でこれからの日本で、いや先進各国でいずれ必要になる高齢化社会に求められるヘルスケアビジネスを手掛けています。これから、とか、いずれ、ではないですね。特に日本では「すでに」ということだと思います。

このビジネスをなぜ手掛けたか、そのいきさつについては前回お話させていただきました。

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生かされているという実感

この部門では大阪市の委託を受けて、国内最大級5000平米の広さを誇るATCエイジレスセンターの運営を受託しているヘルスケア支援事業と介護レクリエーション事業を展開しています。5000平米の広さですが、普通のコンビニの広さが100平米程度ですので、簡単にイメージしてもらうにはコンビニ50店舗の広さだと考えてください。その広大な面積の中で、健康や介護、福祉に関するあらゆる分野で、年齢やハンデを乗り越えるために開発された様々なサービスや器具を常設展示しているほか、様々なイベントやセミナーを開催しています。大阪市以外の自治体からもアクティブシニア向けのヘルスケア関連施設の運営を受託しています。

また、介護レクリエーション事業では、レクリエーション介護士という当社が開発した資格について事務局運営を行っています。認知症を防ぐため、またその進行を緩やかなものにするためのレクリエーション、それが介護レクリエーションです。

介護レク広場という介護レクリエーションで使う塗り絵や脳活などの3,000点を超える素材を、会員に「介護レク広場」というサイトで提供もしています。こちらはすでに5万人を超える会員が利用するサービスになっています。資格についても、おかげさまで、2014年9月創設の資格ですが、資格認定者は累計で3万3千人を突破しています。吉本興業の芸人の方からも、例えば「あるある探検隊」で有名なレギュラーさんなど多くの方が資格を取られて、介護施設を回られていますし、昨年の9月からは「お笑い」と「介護レクリエーション」を融合した「よしもとお笑い介護オンライン」という配信サービスも開始しています。

介護レクリエーション
認知症の進行を緩やかにする「介護レクリエーション」の資格の事務局もBCCが運営している

このような資格者、また「介護レク広場」の会員はそれぞれ施設などで介護に従事されている方も多いのですが、そのネットワークが当社のこれからの成長の源泉になると考えています。

その意味を教えてください。

伊藤 シニアプラットフォームを当社は標榜しているのですが、これからさらに日本が高齢化社会になっていく中で、ヘルスケア分野こそ成長領域と考えている企業はとても多いと思うのです。ただ、そのような企業が実際に高齢化社会の課題を解決するサービスや製品を開発しようという際、やはり事前のマーケット調査や製品、サービスを実際に使ってもらい改善、改良を行っていただくための実践の場が求められてきます。やっと当社はそのような場を提供していくためのネットワークを築けてきたと考えています。

実際、介護現場で不足する人手を補うための介護ロボットの開発などに当社はこのプラットフォームを活用し参画しています。ロボットだけではなく、様々なサービスがこの市場でこれから開発されていくと思いますし、そこに当社は主体的に関わっていきたいと考えています。「人(高齢者)を支える人を支える」というのが、この事業で我々が掲げている言葉ですが、それを目指していきたいですね。

介護ロボットの開発
BCCではロボットを活用した介護サービスの開発も進めている(BCCホームページより)

資本提携やM&Aを視野に入れた成長戦略を描く

素晴らしいビジョンですね。ただ、もう一つ展開されているIT営業派遣を中心としたIT営業アウトソーシング事業とのシナジーについては、どう働くのか、疑問もあります。

伊藤 介護の現場については、IT化がまさに待ったなしという状況ではないか、と考えています。まだ具体化された取り組みにはなっていませんが、そこには必ずシナジーが働く余地があると思いますし、そこはまさに当社の伸びしろなのだと考えています。

なるほど、HPに掲載されていますが、前回の決算説明会では将来的な目標として売上100億円の達成を掲げられています。

伊藤 おかげさまで、私どもはコロナ禍の逆風の中で、これまで5期連続で増収増益を果たしています。来期も増収増益を続け6期連続を達成するつもりですが、全体の売上は2021年9月期で11億23百万円という水準です。9億8千万円がIT営業アウトソーシング、ヘルスケアビジネスが1億4千万円という水準ですね。

この二つの事業のうち、IT営業アウトソーシング事業は、人材さえ採用できればニーズはとても強いので、順調な成長が期待できると考えています。売上100億のうち30億から40億はこの事業の成長が支えてくれるでしょう。

一方でヘルスケア事業ですが、この事業についてはオーガニックな成長だけではなく、資本提携やM&Aを視野に入れた成長を考えています。冒頭で、公開したことで、様々なM&A案件が持ち込まれている、と話しましたが、精査をして、まだまだ途上ではありますが、これまでに築き上げた介護事業に係るネットワーク、シニアプラットフォームを活かして、どこかで爆発的な成長、加速的な成長を果たしていきたいですね。

ムーンショット型研究開発事業で行政や大学と連携

そう言えば先日、伊藤社長は内閣府などが後押しする国立研究開発法人科学技術振興機構「ムーンショット型研究開発事業」のアバター共生社会企業コンソーシアムヘルスケア分科会の会長に就任されたとお聞きしました。

伊藤 ムーンショット型研究開発事業というのは、その言葉通り、月に打ち上げるような画期的なという意味です。ハイリスク・ハイリターンで期待は大きいものの、成功するかは分からない、アメリカなどの動きも見ながらこれまでの国家プロジェクトでは扱えなかったようなテーマを、失敗を恐れず扱おう、取り組もう、そうしたプロジェクトが始まっている、とご理解ください。ムーンショット目標1で掲げているのは「2050年までに、人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現」というものです。

メタバースなど仮想空間に自分の分身(アバター)を通じて参加する、という世界も考えられますが、アバター共生社会企業コンソーシアムで取り組んでいるのは、TV番組の司会などで有名なマツコ・デラックスさんに似せたマツコロイドなどで有名な大阪大学の石黒教授なども参画いただく、サイバネティック・アバター(遠隔操作ができる「身代わりロボット」)を通じたシニア層やハンディキャップを負った方の社会参加の可能性を広げる取り組みです。

また、私は母校である大阪市立大学でも医学研究科の客員教授として、ヘルスケア分野のベンチャー企業とアカデミアを結ぶ役割を担っています。

行政や大学とも連携し、株式公開を果たしたことでより触媒としても、事業化の器としても力を増したBCCを成長させていきたいと考えています。

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