2022年元日、欧州委員会は環境配慮の経済活動を認定する「EUタクソノミー」に関してある方針を表明しました。脱炭素に貢献するエネルギーとして、原子力と天然ガスを加えることを決定したのです。この方針が原子力を取り巻く現状にどう影響するのか、関連銘柄の動向も含めて株式アナリストの鈴木一之さんに詳しく解説していただきます。

  • 2022年1月、欧州委員会は原子力を「持続可能な手段」と認める方針を表明
  • 原子力の有効性を判断する基準が明確化され、投資マネーの流入に期待
  • 再処理コストの低減と処分場問題の解決が急務

原子力と天然ガスを「持続可能な手段」に追加

コロナウイルスのせいではないと思うのですが、年が改まって、身の回りの様々な物事が少しずつですが変わってきたような気がいたします。

食品や日用品の値段がずいぶんと値上がりしたな、と感じることが一つ。もう一つ、「原子力」という言葉を耳にする機会が増えてきました。今年の元日、1月1日にEUの議会に当たる欧州委員会が、脱炭素に貢献するエネルギーとして、原子力と天然ガスを加えることを決定したせいかもしれません。

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欧州委員会は「EUタクソノミー(分類の方法)」として、どのような事業がサステイナブルかを明確にクラス分けしています。EUは2050年までに、域内の温暖化ガスの排出量を実質ゼロにすることを目指していて、そのための行動指針となる具体的な目標を掲げています。世界に先駆けて自動車の温暖化ガス排出量の基準を定めたのもその一環です。

そこに「原子力」が加えられようとしています。原子力と天然ガスに関してはEU内の各国の立場が食い違い、これまでは明確には判断されずあいまいのままにされてきました。しかし年が改まったのをきっかけに、一定の条件を満たせば、原子力と天然ガスを「持続可能な手段」として認める方向のようです。

EUタクソノミーの影響と議論の行方に注目

原子力が環境に貢献する有効な手段として認められるための基準を明確にしたことで、EU域内、または域外からの投資マネーが導入しやすくなります。今回のタクソノミーにはEU以外の国や地域に対して何かを求めるような強制力はありませんが、EUがそのような判断を下したとなればやはり無視はできません。

折しもコロナ禍の世の中はインフレ、物価の上昇が昨年よりも一段と鮮明になっています。環境を重視するあまりに化石燃料などの資源開発に投資資金が回りにくくなっており、長期はともかく短期で見ればそれが強い需給のひっ迫を招いています。いわゆる「グリーンフレーション」が生じています。

福島での原発事故以来、ドイツをはじめ従来の原発政策が大きく見直される動きが世界規模で広がっています。原発は温暖化ガスの排出を減らすという点では申し分ありませんが、事故やテロのリスクが常につきまとい、万が一の社会的コストは膨大なものになります。福島の事故から10年以上が過ぎ、いまだに被害に遭われた方の避難生活は続いており、社会コストの懸念がますます強くなっています。

EUが新年の初日に打ち出した行動指針、タクソノミーが「原子力」となると、具体的にも象徴的な意味でも、今後は各国の政策や賛成・反対派の人々の行動に大きく影響してくると見られます。原発政策に関してはEUも一枚岩ではなく、原発大国のフランスをはじめフィンランド、ポーランドは賛成派ですが、ドイツやオーストリアは反対の立場にいます。今後の紆余曲折は容易に予想され、ここから始まる議論の行方に世界中の耳目が集まると見られます。


EUタクソノミーで「持続可能な手段」として認められた原子力。各国の政策や議論の行方に耳目が集まる

問われる「核のゴミ」問題の解決策

原子力をエネルギーとして利用する場合、最も大きな問題として挙げられるのが、発電が終わった後の放射性廃棄物「核のゴミ」です。この「核のゴミ」、使用済み核燃料をどのように取り扱うか。原子炉を持つすべての国々が真っ先に取り組まなくてはならないことです。

しかし第二次世界大戦から80年近くが経過し、原子力の平和利用が始まって80年が経っても、使用済み核燃料に関しては原子炉を持つどの国も明確な解決策を持ち合わせていないのが現状です。放射性廃棄物の処分の問題は、関連する国々が事前に検討すべき問題でもあります。今回はこの点を考えてみようと思います。

世界には350ギガワット規模の原発が存在します。一般に、出力100万キロワットの標準的な軽水炉(普通の水)原発の場合、核燃料の取り換えは1年から1年半に一度の割合で行われます。年間の取り出し量は重金属(ウランなど)で20トンほどになります。

世界で毎年発生する使用済み燃料の量は、重金属で約1万500トンと見積もられます。このうちの8500トンが冷却プールなどで貯蔵されており、残りの2000トンが再処理されています。

原子炉から取り出された使用済み核燃料は、猛烈な高温を発しているため、冷却のために原子炉に隣接する深いプールにただちに送られます。そこで熱と放射線のレベルが下がるのを待つことになります。

冷却プールでの貯蔵期間は、数年から数十年とまちまちです。そのため冷却プールは10年から30年分の使用済み核燃料が貯蔵できるくらいの容量に設計されています。取り出されて1週間くらいした使用済み核燃料は、1トンで100キロワットほどの熱を出します。家庭用のお風呂1杯分の水は10分くらいで沸騰する計算です。

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