2022年9月27日の日経朝刊の記事「米実質金利上げ、余波拡大」の中に主な金融資産の騰落率グラフが載っていました。米国REIT(不動産投資信託)の下落率は7月末比15%でナスダック12%、ダウ平均10%よりも大きく下落しています。実質金利は「名目金利-予想インフレ率」で算出した金利です。今回はREITの仕組みとともに、金利上昇とインフレがREITに与える影響についてみていきます。
- REITの主な収入源は賃料収入、物件売却による譲渡益も
- 利上げにより利益が圧迫されると、分配金の減額や投資口価格の下落につながる
- REITは物価に連動して賃料を毎年調整。インフレによる物件価格上昇も期待
REITの主な収入源は賃料収入、物件売却による譲渡益も
REITは多くの投資家から投資資金を集め、その資金でオフィスビルやマンション、工場、物流施設などの物件を購入・保有し、物件に入居している会社やテナント、個人などから賃料を徴収します。その賃料収入が主なREITの収入源です。それ以外の収益として、購入したビルが値上がりした場合、物件の売却による譲渡益があります。
リートは賃貸する建物を購入するにあたり、上記の投資家からの投資資金以外に金融機関から融資や投資法人債(社債のようなもの)を発行して資金調達も行います。この部分は借金になりますので、借りた金融機関や投資法人債の保有者に定期的に利子の支払いが発生します。
投資家には投資口に応じてREITの利益(賃料や譲渡益から支払い利子やREITの事務費用を差し引いたもの)から定期的に分配金が支払われます。分配金の金額はREITの利益の変動により増減します。利益が変動する要因のひとつとして空室率の増減があります。
以上がREITの大まかな仕組みです。次に利上げの影響についてみていきます。
REITに対する利上げの影響
中央銀行が利上げを行うと、さまざまな金利に影響を与えます。REITに関しては金融機関からの融資金利の上昇や投資法人債を今後発行する際に利率を上げる必要が生じるなどの影響が出ることが考えられます。
利上げ前と同額の賃料収入であった場合、支払い利子が増えることで利益が圧迫されます。それに伴い、分配金が減額されたり、投資口価格が下落したりする要因になります。
また、中央銀行が利上げを行うと長期金利(10年物国債の利回りなど)にも上昇圧力がかかります。REITへの投資を判断する材料のひとつとしてREITの分配金利回りと10年物国債の利回りの差(スプレッド)があります。
スプレッドが縮小すると、REITより安定した収益が期待できリスクも少ない国債への投資が選好されます。それによりREITの投資口価格が下がりやすくなります。
一方で、投資口価格が下がった場合は、分配金が変わらなければ分配金利回りが上昇します。
例えば、
- 分配金4万円、投資口価格格100万円の時の分配金利回り
4.0%(4万円÷100万円×100(%)) - 分配金4万円は変わらず、投資口価格が70万円に下がった場合の分配金利回り
約5.7%(4万円÷70万円×100(%)
となります。
REITの分配金利回りが上がることでスプレットが拡大すると、今度はREITの投資妙味が高まり、10年物国債からREITへの投資資金シフトが起こります。それにより投資口価格は上昇していくことになります。
次にREITに対するインフレの影響についてみていきましょう。
REITに対するインフレの影響
一般的に、不動産はインフレに強い資産といわれています。ここでは、REITの主な収入となる賃料収入に対する影響に焦点を当ててみていきます。
REITが保有管理する物件は、賃貸アパート(一般的に契約期間2年間)などに比べ契約期間が5年、10年といった長期契約の物件が多くあります。そのため、賃貸契約書にエスカレーション条項を入れ契約をします。エスカレーション条項とは、物価に連動して賃料を毎年調整するために必要な条項です。
エスカレーション条項を契約書に入れることで、インフレ時に賃料収入が実質的に目減りしないように対応策を講じています。
また、保有管理している物件はインフレに連動して価格が上昇していくことが期待できる資産です。
利上げがひと段落すれば、REITへ投資資金が戻りそう
以上、REITの仕組みとともに、利上げとインフレの影響についてみてきました。
今回の米国利上げは、1回の利上げ幅が0.75%と大きく、それに伴うスブレッドの急速な縮小が投資口価額下落の大きな要因になったと考えられます。
今後インフレのペースが緩やかになり、利上げがひと段落すれば、インフレに強いREITへ投資資金が戻るかと思われます。