宮崎県延岡市で保険業や資産運用のアドバイスに携わる小田初光さんが、地方で暮らす生活者のリアルな視点で、お金に関するさまざまな疑問に答えます。今回のテーマも、前回に引き続いて「相続」。お父さんを亡くした相談者に、遠くない未来に向き合うことになる「二次相続」まで考えた相続税対策についてアドバイスします。
- 実家が都市部にある場合、地価の上昇によって多額の相続税が発生する可能性がある
- 一次相続で相続税を0にしても、二次相続と合わせた納税額は多くなる場合がある
- 重要なのは二次相続の財産を減らすこと。不動産は特例の適用など対策を考えたい
二次相続まで考えてはじめて本当の相続税額が見えてくる
【質問】
先週、闘病中であった父さんが逝きました。実家は福岡市にあり、父は堅実な性格なので蓄えもありました。それでもうちには税金は関係ないわと思っていたのですが、実は税金がかかることになりそうで、母の悲しみがなかなか癒えない中、何かやばそうです。普通に申告していけば問題ないと思うのですが……。
前回に引き続き、相続について深掘りしていこうと思います。
今回はズバリ、「二次相続」を考えます。つまり、お父さんが亡くなってからの「次の相続」がどうなるのかを考えておくことです。特に高齢のお母さんがいるのであれば、今のうちに確認しておくことが大切です。
お父さんに続いて、お母さんまで亡くなってしまった場合、税金はどうなるのか? そこまで考えてはじめて、相続税の本当の損得がみえてきます。今回の相談者の例では、福岡市の地価上昇で思ったより不動産価格の評価が高くなり、相続税がかかってしまいました。地方と違い、今回のように親が都市部にいる場合では、相続のときに「えっ」と思うことも多くなるでしょう。
さて、今回の事例では、
①案 父の死亡(一次相続)において相続税を0にした場合
②案 父の死亡(一次相続)において財産を母、子ども2人均等に分けた場合
のそれぞれについて、母の死亡(二次相続)での相続税がどうなるかをみていきます。
基礎控除は、「3000万円+600万円×法定相続人の数」に当てはめて税金を計算します。相談者は配偶者と子ども2人の家庭ですので、基礎控除額は4800万円です。
そして、相談者の実家の福岡市に住んでいたお父さんの相続財産は以下の通りです。
- 自宅不動産……建物約3000万円、土地約3000万円
(評価詳細は省かせていただきます) - 現預金……1400万円
- 有価証券……1000万円
- 生命保険金……500万円
(死亡保険金500万円×法定相続人3人=1500万円非課税) - 借金……なし
非課税となる生命保険金を除いた相続財産は約8400万円です。基礎控除額の4800万円を超えていますので、当然のことながら申告の対象となります。
一次相続での節税が、二次相続では逆効果に
まずは、一次相続で母(配偶者)の税額軽減を最大限に使って、二次相続で子ども2人が均等に分ける場合を考えます。この場合、相続税の計算は次の通りとなります。
課税遺産総額:8400万円-4800万円=3600万円
母の相続税:3600万円×1/2×15%-50万円=220万円
子ども2人の相続税:3600万円×1/2×1/2×10%=90万円
相続税の総額:220万円+90万円×2=400万円
この相続税の総額を各人の取得割合であん分して、各人の相続税を計算することになります。
次に、上記の①案「父の死亡(一次相続)において相続税を0にした場合」を考えます。
父が亡くなった一次相続で母の税額軽減を最大限に活用し、母がすべて相続すれば、一次相続での相続税はゼロとなります。次に母が亡くなった二次相続で、子どもが財産を均等に分けると、子ども1人の相続税は
(8400万円-基礎控除4200万円)×1/2×15%-50万円=265万円
となり、相続税の総額は子ども2人で530万円となります。
逆に②案の「父の死亡(一次相続)において財産を母、子ども2人均等に分けた場合」で、母が亡くなった二次相続では子ども2人が均等に分けるとどうなるでしょう。
一次相続で母は4200万円、子ども2人には均等に2100万円で分けると、母は税額軽減で相続税はゼロ。
子ども1人当たりの相続税は、
400万円×2100万円÷8400万円=100万円
となり、2人で相続税は200万円となりました。
二次相続時は取得財産が2100万円となり、基礎控除の4200万円以下となるため、二次相続の相続税額はゼロになります。
どうでしょうか? ①案と②案での相続税納付額の差は、530万円-200万円=330万円と大きな金額となりました。
結果的に二次相続まで考えると、②案がベストの選択ですが、「母が財産を子どもと均等に分けることに同意できるかどうか」など家庭の事情もありますので、そこも考慮しなければなりません。
二次相続までにいかに相続する財産を減らすか
①案と②案で相続税額の差が生じた原因として、2つ考えることができます。基礎控除額の減と、配偶者の税額軽減です。
基礎控除は、子どもの人数が変わらないとすれば、母が亡くなった場合の二次相続の基礎控除額は1人分減り(600万円減)、取得財産が変わらなければ、その分だけ相続税は増額になります。同じように、配偶者の税額軽減も、二次相続では母が亡くなることになるので使えません。
このように、一次相続と二次相続の課税価格が同じであれば、二次相続のほうが相続税は大きくなりますので、二次相続までにいかに相続する財産を減らしておくかが大事です。
そして、今回のように地価が上昇している場所に不動産を持っていれば、普通のサラリーマンでも相続税は当たり前のようにかかってしまうことになります。不動産は相続財産の中で一番高額なので、評価を下げる工夫が必要になります。
不動産の相続税対策
不動産の評価は土地、建物と別々に額が決められます。土地は「路線価」、建物は「固定資産税評価額」が基準となります。
建物は、毎年役所から送られてくる固定資産税納税通知書に評価額が示されています。路線価は、国税庁が毎年7月に公表していてウェブサイトで確認できますが、実際の計算はちょっと厄介なので、専門家に相談した方がいいかもしれません。
土地の評価は、「小規模宅地等の特例」が適用できれば、最大80%の評価減になります。ただ、その土地に居住するなどの要件があるので、二次相続では特例の適用が厳しくなります。そして、資産運用の手段としてよくアパート経営が挙げられるように、賃貸にすることで評価を約3分の1に下げる方法もあります。資産家が現金を不動産に移すのは、財産の評価額を減らす効果があるからです。
株式など有価証券の相続税対策
そして気をつけなければいけないのは、有価証券などの評価です。有価証券は、死亡した日の時価が基準となります。株式などは価格の変動が大きく、10か月以内の申告・納付までに株式が暴落することもありえますので、株を売却して相続税を納付しようと思っていると大変なことになります。相続税は現金納付が原則なので、納付する時期などを踏まえて有価証券の扱いを考えましょう。
一次相続(父の死亡)で悲しみの中、目先の税負担を抑えるように申告をしてしまうと、場合によっては二次相続で税額が増えてしまうことを理解していただきたいです。最初の相続と次の相続に向けた納税資金の確保のため、子どもや孫への生前贈与や、非課税限度額までの生命保険加入、小規模宅地等の特例要件の充足など、早めの相続対策を検討したいものです。