宮崎県延岡市で保険業や資産運用のアドバイスに携わる小田初光さんが、地方で暮らす生活者のリアルな視点で、お金に関するさまざまな疑問に答えます。最近は、物価高を嘆く切実な声が、小田さんのもとにも多く届いているようです。私たちの生活を苦しめる急激なインフレは、いつ終わりを迎えるのでしょうか?
- 輸入に頼る日本。円安になると輸入の価格が高くなり、物価が上がりやすくなる
- 米国はインフレを抑えるために金利を上げて、日米の金利差が円安の要因になった
- 政策金利を上げるのが難しい日銀。日本のインフレは「まだまだこれから」
輸入が高くなり、価格転嫁で物価高が進行
【質問】
物の値段が上がっています。だったら、値段を下げるように国が決めちゃえば良いのではないですか? 政治家はそのためにいるのでしょう。経済のことは全然わかりませんが、お金を持っている方だけが何も変わらず暮らせるなんて、おかしくないのでしょうか? 理解できません。
今回の質問もそうですが、このところ私のもとに寄せられる質問は、物価高(インフレーション)への不満を愚直にぶつけるようなものが多くなっています。みなさん物価が上がってどうすればいいのか分からなくなっているようですが、残念ながら大半の方が八方ふさがり状態に陥っていると感じています。
ここから、少々わかりやすく経済の話をしていきます。そもそも、戦後すぐの自給自足で生きていた時代でしたら、物の値段が上がっても不公平感はあまり感じなかったでしょう。しかし、昔と違って、夜はローソクだけでは限界がありますね。電気はどうするの? 今ではスタバやマックなど、他国の企業なくして生活はできません。
国が発展することは、経済が安定に向かうことです。安定を得るために、人々は努力を重ねて「お金の価値」を高めていこうとして、結果として企業は大きくなっていきます。
国内での自給自足には限界があります。そのために、世界経済は「お金」を取引するためのルール作りをしています。為替レートという、外国のお金を交換するルールです。例えば、日本円100円に対して、米国のドルは何ドルで交換できる、というようなことです。今から24年前、1998年の金融危機では1ドル147円まで円安が進みましたが、その13年後の2011年には1ドル80円を超える円高になりました。今現在は1ドル約139円が、円とドルの交換レートとなります。
日本は、外国から食料やエネルギーを輸入しなければ、国の生活基盤を賄えません。そして、輸入に必要な代金は、自国からの輸出で補わなければなりません。今のように食料・エネルギー価格が上昇すると、日本は輸入を減らすか、輸入量を維持するために生産と輸出を増やすしかありません。今は円安です。今年初めには115円ぐらいで輸入できたものが、今は139円で輸入しなければなりません。結果、輸入価格の上昇の一部が消費者に転嫁され、物価高になります。
今までは「輸出大国」といわれていた日本ですが、製造業の多くが海外に製造拠点を移している現在では、輸入が増えたことと円安が重なったことにより、ダメージが大きくなっていると感じています。今の日本経済の状況では、物の値段を下げることは企業の売り上げ減少に直結し、そして業績不振により、賃金は上がらないことになります。企業は、価格を商品に転嫁していくしかありません。
利上げできない日本。インフレは続きそう
40年ぶりのハイパーインフレ真っただ中の米国は、景気を冷やして物価上昇を抑える政策として、金融引き締め(利上げ)をしながら、経済全体のバランスを取ろうとしています。米国のインフレの実態を簡単に説明すると、家賃は前年比で20~30%値上げは当たり前、資産価格も大きく上昇。アルバイトの時給は2000円を超えて大きく上がり続けています。米国でも、物価の上昇に賃金が追いついていない状況にあります。
これは日本の、1985年から4年間ほど続いたバブル経済に似ています。インフレが急激に進むと、国民の生活が苦しくなるので、各国の中央銀行はインフレが激しくなったら金利を引き上げて、インフレを抑えにいきます。金利を上げると、スタグフレーション(景気が後退しているのに、物価が上昇する)に陥るなど、景気悪化のリスクはありますが、通常は金融引き締めを優先します。
各国の中央銀行が金利を上げれば、金利が上がった国の通貨は買われやすくなる。これが、さらなる円安を呼ぶ理由になります。今の政策金利は、日本がマイナス0.1%、米国が4%。違いは圧倒的なものです。今年7月以降、高金利を求めて、安全性の高い投資信託であるMMF(マネー・マーケット・ファンド)に世界の投資マネーが約36兆円集まっているのもうなずけます。
だったら、日本も金利を上げて円の価値を上げればいいと思いがちですが、それは簡単なことではありません。第一に日本は、今もデフレ脱却中であり、インフレは景気悪化を招くリスクが高い。そしてさらに大事なこととして、これまで日銀はデフレ脱却のために「異次元緩和」としてETFなどを買って、マーケットにお金をばらまいてきました。長期国債も過去最高のペースで買い入れています。結果、長期金利が上昇して国債価格が下落し、日銀は債券保有額が大きいために、評価損も途方もない大きさになっています。
同じ1%の金利上昇でも、短期国債ではたいしたことのない損失が、長期国債では巨額になります。日米の金利差が長期にわたり、円が売られて円安が進行すれば、物価はさらに上昇していきます。しかし、日銀は金利を上げると債務超過になるので、金利を上げられない状況に陥っているのです。
各国の金融引き締めと日本の金融緩和は相異なる政策です。今後も金利差が開く以上、日本のインフレはまだまだこれからになります。物価上昇に追いつくよう賃金水準を上げながら、景気が悪化しないようにバランスを取ること、いつかは決断すべきマイナス金利政策の解除など、政治家はやるべきことが山積みです。
私はリスクヘッジの手段として、ドルの保有も少しずつ進めているところです。