現役証券アナリストの佐々木達也さんが、株式市場で注目度が高い銘柄の強みや業績、将来性を解説する本連載。第35回は、印刷、広告、物流などの業界のデジタルプラットフォームを運営するラクスル(4384)を改めて取り上げます。
- ラクスルは印刷、広告、物流などのデジタルプラットフォームを運営
- 「ラクスル」「ノバセル」「ハコベル」でこれまでの業界構造を一変させた
- 2023年7月期は増収増益見込み。獲得可能な最大市場規模は国内で140兆円
ラクスル(4384)はどんな会社?
ラクスルは印刷、広告、物流などのプラットフォームを運営しています。デジタル化が比較的進んでいないこれらの業界にデジタルプラットフォームを活用し、「仕組みを変えれば世界はもっと良くなる」というビジョンで成長を続けています。
ラクスルは2009年に設立されました。翌2010年に印刷通販の「価格比較.COM」の運営を開始し、同年9月に現在の「ラクスル」に変更しています。創業者の松本恭攝社長兼CEOは小学生の時からインターネットに触れるデジタルネイティブ世代でしたが、社会人になって「世の中は想像以上にアナログで非効率が多い」との思いを抱き、創業に至っています。
その後は2015年に物流のシェアリングプラットフォームを開始し、ヤマトホールディングスと資本提携を行うなど業容を広げていき、2018年に東証マザーズ市場(現在の東証グロース市場に相当)に上場を果たしています。
ラクスル(4384)の強みは?
ラクスルの強みはデジタルの力でこれまでの業界の構造を一変させたことにあります。
例えば印刷プラットフォームの「ラクスル」の印刷業界は、これまで営業担当者が企業を訪問して受注につなげており、地域密着型の受注構造となっていました。高コスト体質により、小ロットでの発注も割高に難しいという課題がありました。
ラクスルはこうした課題に対してプラットフォームを活用し、全国の提携している印刷会社の稼働していない時間にユーザーからの注文を割り振ることにより、高品質な印刷物を低い単価で提供し、シェアを拡大しています。また、印刷物のデザインやポスティング、新聞折込みの手配などもネット上からワンストップでオーダーできる使いやすさもユーザーに支持されています。
広告プラットフォームの「ノバセル」は、テレビCMやタクシー広告、ウェブ広告などの動画の企画、制作、放映、分析を一気通貫で行うことができるサービスです。分析ツールでは効果のあった時間帯や放送局、素材などを細かくリアルタイムに可視化されます。これにより広告の費用対効果を向上させ、デジタルマーケティングのようなきめ細かい広告運用を可能としました。
また、物流プラットフォームの「ハコベル」の物流業界も同様に、多重下請け構造による低収益構造といった課題がありました。これに対して「ハコベル」では荷主(ユーザー)と運送会社を直接マッチングすることにより、収益性・生産性を改善しています。
ラクスル(4384)の業績や株価は?
ラクスルの今期2023年7月期は売上高が前期比12~17%増の382億~396億円、営業利益が2.2倍~2.8倍の10億~13億円を見込んでいます。
2022年8~10月期は各事業が好調に推移しました。「ラクスル」事業では需要拡大に向けたテレビCMの広告宣伝の効果もあり、新規顧客の獲得が進みリピート購入数も堅調に推移しました。また、新たに買収した段ボール・梱包材のプラットフォーム大手の「ダンボールワン」社による増収効果もありました。
1月20日の終値は2992円で投資単位は100株単位となり最低投資金額は約29万9200円です。
株価は2021年11月に7310円の高値を付けたのち、2022年6月の1422円まで大きく売られる場面がありました。しかしその後は、少しずつ下値を固め、22年12月に3935円まで戻しましたが、いったん戻り売りに押されています。
ラクスルの各事業の成長の可能性を示すTAM(獲得可能な最大市場規模)は国内合計で140兆円とされています。
印刷や広告、物流といった企業の間接費用を効率化するビジネスは、今後の拡大余地が大きいとみられており、株価についても再度の上昇余地があるとみています。