「預金なら安心」って本当なの? 「元本保証」って、実際に何を保障してくれるの? 実は、現金にもリスクが潜んでいるのです。本連載ではそんな「現金のリスク」を切り口に、お金のほんとうの価値を守るための資産運用について考えていきます。今回も「50歳以上の方のためのNISA」をテーマに、インフレに負けない「守りの投資」のあり方について見ていきます。
- 「守りの投資」とは、「現金資産がインフレに負けないようにする」という意味
- 消費者物価指数の伸び率が、定期預金の利率を下回るような状況は考えにくい
- インフレが続く根拠は、日本人の生活の海外への依存度が高まっていること
「50歳以上の方のためのやさしいNISA」も3回目にして新年です。遅ればせながら、今年もどうか、よろしくお願いいたします。
第2回 将来の収入の大まかな見通しは立てていますか?
第1回 将来、身内の支援が必要になるのはいつ?
投資の目的は、大きく分けて2つある
投資の目的は大きく分けて2つあります。「守り」と「攻め」です。
投資における「守り」とは、「攻め」とは、どういうことでしょうか?
現金資産を十分にお持ちの方ですと、投資の目的は「守り」になります。現金資産が少ない方の場合、投資の目的は「攻め」をお考えになった方が良いかもしれません。
なお、ここでいう「十分に」と「少ない」の線引きですが、個人の主観で構わないと思います。「老後資金の準備の状況」ということにこだわることもないと思います。
と言ってしまうと、何だか突き放された感じがしてしまいますが、「老後資金が十分か否か」と「投資の目的」については、それこそ専門家に相談なさるのがベストな選択かもしれません。
投資の目的が「守り」=「現金資産の価値の維持」
投資の目的が「守り」の場合、どんな投資をすればいいのでしょうか? 「守り」とは、お持ちの「現金資産の価値の維持」です。つまり、お持ちの「現金資産がインフレに負けないようにする」という意味です。
消費者物価指数>定期預金の利率
銀行名 | 商品 | 満期 | 利率 |
---|---|---|---|
みずほ銀行 | 大口定期 | 10年 | 0.2% |
三菱UFJ銀行 | 大口定期 自由金利型 | 10年 | 0.2% |
三井住友銀行 | 大口定期 | 10年 | 0.2% |
消費者物価指数(総合指数・前年同月比) | 2023年10月 | 3.3% |
表は、メガバンクといわれる銀行の残高1000万円以上の定期預金の金利です。一時期に比べれば、まあ、視力検査並みの利率になりましたね。これは市場金利が伸びてきた影響だと考えられますが、消費者物価指数の数値とは比べものになりません。消費者物価指数は変動しますが、表の定期預金の利率は満期まで、つまり10年間、固定されます。
インフレは今後も続くと確信
日本は今後、インフレの傾向が続くのか、デフレに戻るのかは、何とも申せませんが、後に述べるように、筆者は今後もインフレが続くと確信しています。
インフレとは「物の値段(=価値)が上がることで、お金の価値(=利率)が相対的に下がること」です。インフレの率、つまり物の値段(=価値)の上下を数字で表現したものが消費者物価指数ということになります。そして、お金の価値(=利率)を表現したものが、分かりやすくいうと本稿では定期預金の利率ということになります。
先ほどの表では、「消費者物価指数>定期預金の利率」となっていることを示しています。もちろん、定期預金の利率は10年間固定ですが、消費者物価指数は変動(=上下)します。が、筆者は少なくとも、消費者物価指数の数字(率)が、定期預金の利率を下回ることはあり得ないと確信しています。
時間の経過が、預金の実質的な目減りにつながる
ですので、時間が経っても「消費者物価指数>定期預金の利率」の関係は変わらず、そればかりか時間が経てば経つほど「物の値段(=価値)」と「お金の価値」の差が、どんどん大きくなってしまうのです。つまり時間の経過はそのまま「預金の実質的な目減り」につながる、ということなのです。
では「預金の実質的な目減り」を解消するには、どうしたら良いか? その問いに対する答えを提供するなら「投資」、すなわち「守りの投資」ということになるでしょう。
要するに「守りの投資」とは、この消費者物価指数に負けない程度のパフォーマンス(=投資の成果)をめざすことなのです。
なぜ今後もインフレが続くと確信できるのか?
筆者が今後もインフレが続くと確認している最大の理由は、私たちの暮らしが海外に依存する度合いが高まっていることです。
エネルギーの 海外依存度 |
88.7%*(2020年度) |
---|---|
食料供給の 海外依存度 |
62%*(2022年度) |
オペレーティング システム |
Windows(マイクロソフト)、iOS(Apple)、Android(Google)など |
通信販売 | Amazonが著名 |
食事のデリバリー | ウーバーイーツでいいんじゃない? |
これまで海外への依存度が特に高かったのは、食料とエネルギーに限られていたと思います。食料とエネルギーは、どちらも「命をつなぐ」ために欠かせないからです。「食べるために働く」とは言いますが「住むために働く」とは言いませんよね。暖を得ることができず「凍え死ぬ」ことだってあり得ますよね。
食料とエネルギーは命をつなぐぐために欠かせず、その命綱ともいうべき2点が外国への依存度が高いのが、今の日本です。
一方、図表2の下に挙げた3点は「暮らしを豊かにする」もので、いずれもコロナ禍で脚光を浴びたものです。これらは、運用(=ビジネスとして活用したり、働いたり)しているのは日本人だったとしても、開発元や権利を持っているのは、いずれも海外の企業が多いのではないでしょうか?
加えて、表には載せていませんが、今後は外国人労働者への依存度が高まってくると思われます。
これらの事実がなぜ問題かというと、「日本のお金(=円)」が「海外に出ていってしまう」ことにつながるからです。海外で食料やエネルギーを買い付けたり、オペレーティングシステムや通信販売、食事のデリバリーなどのサービスの開発元に権利料を支払ったり。
それも単なる「富の流出」にとどまらず、「円を外貨に換えて」海外に出ていってしまう、ということなのです。ですので、一時的にはともかく、長期的には「円の価値が下がる」可能性のほうが高いのです。
なお、外国人労働者への依存度が高まることは、「円の価値が下がる」こととは無関係だと思われるかもしれません。しかし、海外から日本に出稼ぎにくる労働者の多くが、「母国の家族」に宛てて送金しているそうです。こうした行為も「円の価値が下がる」ことにつながると思いますし、やがては海外から日本に出稼ぎに来る労働者も減少することでしょう。