2021年10月6日の「中国恒大集団問題に見る、信用リスクと流動性リスク」の記事で中国の不動産バブルについて触れましたが、3年近く経った今でも中国の不動産不況は続いています。
それにより、個人消費が冷え込んだり、過剰生産されたEV(電気自動車)や鉄鋼などが安値で輸出されたりして、中国との間で先進国を中心に経済摩擦が起きています。
今回は中国経済の状況を確認しながら、景気サイクルと需給ギャップについて考えていきます。

  • 景気サイクルが機能するためには、需給ギャップを主に供給側が調整する必要がある
  • 電気自動車や鉄鋼が過剰生産の中国は、国内で供給調整をうまく行えない疑いがある
  • 資産運用に際して米国雇用統計や利下げだけでなく、中国経済の動向にも注目したい

景気サイクルと需給ギャップについて

下の図は、一般的な景気サイクルと需給ギャップを表しています。

景気サイクルと需給ギャップのイメージ

景気が上向いてくると需要が増え、企業は需要に応えるよう供給を増やします。それにより企業の売上や利益が増え、従業員の給料も上昇しさらに景気が良くなるのが①の状態です。

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ただし、景気にはサイクルがあり、好景気のピークを迎えた後に、供給が需要を上回る時期が到来します。それが②の景気下降局面です。景気下降局面では、企業は需要に見合うよう供給を減らしていきます。その後景気が底を打ち、需要が徐々に回復することで、供給を上回るようになり、景気は上昇していきます。

以上のように景気サイクルが機能するためには、需給ギャップを主に供給サイドで調整する必要があります。また、需給ギャップについては一国の経済の中で説明されます。

需給ギャップ……中国では

最近、新聞やネットなどで、中国の過剰生産によるEV(電気自動車)や鉄鋼などの安値での輸出(ダンピング輸出)と、それに対して輸入する国が追加関税を課す、または課すことを検討するというニュースをよく見かけるようになりました。

このようなニュースを見ますと、中国では景気サイクルの景気下降時期に国内での供給調整をうまく行えない(行わない)のではないかと考えてしまいます。

もし、今後も供給調整されないのであれば景気サイクルがうまく回らず、中国経済の低迷が長引く可能性が高くなるかと考えられます。

中国の電気自動車
中国では電気自動車が生産過剰状態だといわれているが、国内での供給調整をうまく行えず、外国に安値で輸出されていることが問題になっている

中国の関税について

ここでは、中国のダンピング輸出への対応措置と、行われている関税について見ていきます。

財務省のホームページにあります「わが国の関税制度の概要」では、関税は輸入品に課される税金であり、最近は主に国内産業を保護する機能として使われている、と記載されています。

ただし、関税を課されるとその輸入品の価格は関税分だけコストアップしますので、国内産業を保護できる反面、物価の上昇(インフレ)にもつながります。それにより金利の引き上げや、金利を高い水準に維持する必要性が出てくる可能性があり、景気を下押しする要因にもなり得ます。

それ以外に、関税を課した国や地域に対する中国の報復関税やレアメタルの輸出規制の強化によって、その国の経済に悪影響を与えるリスクが発生することも考えられます。

また、関税関連のニュースでは9月上旬(当初8月中)に予定されている、米国通商代表部(USTR)の中国からの輸入品に対する関税の最終決定は注目度「大」です。(この記事は2024年9月10日に執筆しています)

最後に

最近の株式市場では、毎月第1週の金曜日に発表される米国雇用統計と米国FRBによる利下げの時期や引下げの幅への関心が極端に高まっているような印象を受けます。米国の景気後退がソフトランディングになるかハードランディングになるかは大きな問題ですが、米国経済には速やかに需給ギャップを調整するポテンシャルがあります。

NISAを利用して長期投資を目指すのであれば、中国経済の動向や米中の貿易摩擦などについても、強い関心を持つようにしましょう。

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