豊かな人生とは何をもって言うか、その指標はお金だけでしょうか? ビジネスを成功させた人に聞くと「人に恵まれた」エピソードが必ず語られます。コロナ禍を体験し、先が見えない世の中だからこそ「人と繋がる」ことの大切さが身に沁みます。“人”という字が支え合っているように、人と出会って何を学んでいくかは、人生において大切な自己投資になります。この連載では、専門知識や経験に秀でたスペシャリストの視点で、豊かな生き方の極意を語ってもらいます。第6回のテーマは、「人生と心の再生」について、倒産を学びの場としている「八起会」の代表世話人、竹花利明さんにお話をお聞きしました。(聞き手=さらだたまこ)

竹花利明さんの写真
竹花 利明(たけはなとしあき)さん
手書きソフトの開発ベンチャーとして知られる株式会社プラスソフト代表取締役。
2006年に「経営に対して漠然とした不安」を抱き、「倒産110番」などで知られる倒産しない経営を学ぶ経営者の会「八起会」を訪れ、八起会会員となる。
2010年 八起会の世話人に就任。2016年 八起会の創設者、野口誠一会長亡き後、世話人全員の推薦にて、代表世話人に就任。
2019年 倒産しない経営を学ぶ「不倒会」を、八起会の活動として開始。
自らは倒産の経験はない。

人生のまさかに備えて心の再生をはかる

「七転び八起き」という諺があります。
七回ノックダウンされても八回目には起き上がるボクサーのように!
何回失敗しても、それに負けず、また勇気を奮い起こすことをいいます。

その諺にちなんで創設された「八起会」。
代表世話人を務める竹花さんは、創設者の故・野口誠一会長は「『人生の“まさか”に備えよ』といつも説いていた」といいます。

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人生のまさかとは、結婚式の披露宴の祝辞などでも聞かれたことがあるかと思いますが「山登りには上り坂と下り坂があるが、人生にはそれに加えてまさかという坂がある」
夫婦の絆もまさかの時に真価が発揮されるように、ビジネスシーンにおいても、特に経営者は、まさかをどう乗り切るかで、その人の真価が問われるのです。

でも、人生で遭遇するあらゆるまさかは難物です。
八起会発足も、日本の経済成長のまさかがその背景にありました。
昭和の日本は、戦後の好景気の波に乗って、東京五輪、大阪万博の効果もあって、経済は上り坂で絶好調。
しかし、1970年代のドルショック、続く石油ショックで混迷し、多くの事業主さんが、まさかの坂を転げ落ちていきました。
そんな時代に自ら倒産を経験し、また周りで命を失う仲間を見て、心を痛めた実業家野口誠一氏が、倒産経験者の人生の再生を目的に創設したのが、八起会発足の経緯です。

竹花さんによると「諺にあるように転んでも立ち上がる、まさかの坂に落ちても這い上がって、そこから立ち直る。そのために何が必要なのかを学ぶ場が八起会」で、「同じ経験者が自らの経験を互いに共有しあうことで支え合うのですが、単に傾いた事業を立て直したり、新規事業を立ち上げて人生をやり直すノウハウではなく、一番大切なのは、人の心の再生まで学ぶこと」。そこに八起会の存在理由があったといいます。

立ち上がるイメージ
転んでも立ち上がる、立ち直る。そのために何が必要なのかを学ぶ場が八起会だ

1980年代後半から、日本はバブル経済で浮かれましたが、2000年代に入って、特に2008年のリーマンショック以降、2011年の東日本大震災を経て、日本の経済はマイナス成長が続き、さらに、ここにきてコロナ禍の先が見えない状態に。

今こそ、あらゆる状況において「心の再生」が必要なとき。
そこで、具体的な方法を竹花さんに伺ってみました。

売上げゼロでも決して会社を倒産しない不倒の極意とは?

八起会が発足して43年。しかし、「深刻な倒産にまつわる相談件数はコロナ禍ではむしろ減っている」と竹花さんはいいます。
これは意外でした。

竹花さんは、東京商工リサーチのサイトで、7月8日に更新された「2021年上半期(1~6月)の全国企業倒産」のデータもなぞりながら「ほら、倒産件数は、コロナ禍の資金繰り支援が奏功して、上半期では2年ぶりに前年同期を下回り、1972年以降の50年間では、2番目の低水準と数字も示してますよね」と。

なんとコロナ禍において、倒産は大幅に抑制された状態が続いているのです。
「もちろんこれは、持続化給付金や特別貸付など、新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急避難的な資金繰りの恩恵と言えますが、倒産の危機に陥った企業を支援する仕組みが社会の中で整ってきた結果でもあると思います」と竹花さん。

かつては、経営が破綻し、多額の負債を抱えた経営者は「もう、死ぬしかない」と追い詰められたものでしたが、今は、法律の専門家と相談して自己破産や債務整理の道を選んで、生きて人生をリセットしやり直せる時代になりました。

竹花さんは「八起会は、専門家の集まりではないけど、かつての倒産経験者のリアルな体験談をいくつも聞くことができ、それがとても貴重な勉強になった」といいます。そして、今、八起会も「七転び八起きではなく、一度もこけるこなく、倒産を未然に防ぐ『不倒会』としての勉強会」に大きくシフトしているといいます。

実際、竹花さんも、1999年に会社を設立してから4年間は赤字続きで、このままでは倒産するという危機感にみまわれたので、八起会と出会って野口会長に学びました。
「倒産させないことがいかに大事かということで、そのためにはどうしたらいいかを実践」したことで、竹花さんの会社は一度も倒産することはなかったのです。

しかも、このコロナ禍の中で「2020年の夏は売上げも半減して、持続化給付金を申請しました。でも、倒産させない努力をしたので、年度末には、結果的に経常利益が過去最高を記録したのです」というから驚きです。

企業成長のイメージ
竹花さんの会社は、コロナ禍でも過去最高の経常利益を記録したという

そう! 竹花さんの会社は、いわゆるコロナ禍におけるK字回復の上向きの方になったというわけです。ちなみにK字回復とは、L字の低迷を続ける企業と、V字の回復を為し得た企業が混在する状態をいいます。

さらに竹花さん自身が長年実践してきた「不倒」のメソッドによって、竹花さんの会社は、常々、「売上げがゼロでも3年間は潰れない会社」を標榜してきたといいます。そして、このコロナ禍の中で「4年間は潰れない会社」にさらに成長したというのですから、まさに学びの成果の実証といえますね!

でも、売上げゼロでも潰れないのはなぜ?
「それは自己資本に余裕があるということです」と竹花さん。
自己資本は内部留保、会計的には利益剰余金ともいいますが、自己資本が高い水準であれば、コロナ禍のような危うい状況でも存続できる企業になれるのです。

いやはや、どうやったら、そんな屋台骨のしっかりした経営が実現できるのでしょうか?
そこには、経営者でなくとも、アフターコロナの先にある人生にも役立つヒントがたくさんありそうですね!

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