豊かな人生とは何をもって言うか、その指標はお金だけでしょうか? ビジネスを成功させた人に聞くと「人に恵まれた」エピソードが必ず語られます。コロナ禍を体験し、先が見えない世の中だからこそ「人と繋がる」ことの大切さが身に沁みます。“人”という字が支え合っているように、人と出会って何を学んでいくかは、人生において大切な自己投資になります。この連載では、専門知識や経験に秀でたスペシャリストの視点で、豊かな生き方の極意を語ってもらいます。
第10回のテーマは、現代社会にあって当たり前の『便利』についてその進化と真価をあらためて考えてみようと思います。そこで、コンビニ業界で長いキャリアを持ち、今もコンビニ経営サポーターとして活躍されている三橋一公さんにお話を伺いました(聞き手=さらだたまこ)。
三橋一公(みはし かずまさ)さん
日本大学法学部を卒業後、株式会社すかいらーくに入社。店舗にて調理と接客を学び、26歳で店長となり、1店舗社員3人パートアルバイト40名の管理を通じ、人事、労務管理、収支管理、金銭管理等々学ぶ。その後、(株)サンクス(現ファミリーマート)に転職。店舗店長を経て店舗開発業務に携わり、さらに、FCシステムの建て直しを請われ、宅配ずしチェーンの総責任者として転職。その後、それらの経験からコンビニオーナーの税務ソリューションにも尽力し、現在は有限責任事業組合CMS代表として、コンビニ加盟店の各種の問題解決のサポートをしている。
世界に誇れる日本のコンビニはどこまで進化するのか?
今年の夏、コロナ禍の中で、東京五輪とパラリンピックが開催されました。
その中で、「これぞ東京のおもてなし」と評判を高めたのが、日本のコンビニエンス・ストア。
2019年のラグビーのワールドカップ開催時も、来日したメディア記者が、TwitterなどのSNSにお気に入りのコンビニ商品の写真を載せて、世界に発信していましたが、2021年のオリ・パラ中も然り!
日本全国津々浦々、今や、ほぼ、コンビニはあって当たり前の生活になっていますが、日常のさまざまなサービスに溢れる「便利」をこれほどまでに享受できるのは、日本ならではの恩恵といえます。
コンビニ以外にも、玄関先まで物が届く「宅配」、住宅街でも珍しくない「自販機」、それから飲んでしまったら「車の代行運転」……などなど日本の日常生活は便利なサービスに満ち溢れています(必ずしも日本だけのサービスではないのですが……)。
しかし、現代日本の便利の縮図であり、便利のアイコンといえば、やはりコンビニエンス・ストア、直訳すれば“便利店” ですからね!
とはいえ、日本のコンビニエンス業界は、ここに来て大きな曲がり角を迎えていると言われています。
予想外のコロナ禍も加えて、遂に、減少トレンドに突入とも!
時代の変化に応じて、「当たり前の便利」が淘汰も含めて新しい進化を遂げる時期かもしれません。
そこで、今回は改めて、「便利」のありがたみをもう一度考えてみようと思った次第です。
お話を伺ったのはコンビニ経営サポーターの三橋一公さん。
コンビニ業界を知りつくした三橋さんに、「便利」はどう作られてきたか? 「便利」はどこへ向かうのか?
三橋さんは開口一番、「コロナ禍の影響もありますし、コンビニへのニーズが大きく変わる時期だと思います。利用してくださるみなさんも《コンビニ愛》全開で考えてくださったら、嬉しいです」といいました。
そう! 便利を考えることは、コンビニ愛を育むことかもしれません。
便利を活かすも殺すも人次第!
もし、近所のコンビニが突然閉店したら?
コンビニがあって当たり前の生活をしているから、なくなるとなればとてつもない不便を感じるでしょう。
三橋さんはいいます。「東日本大震災のとき、近所のコンビニが潰れないようにと、住民のみなさんがコンビニを利用する頻度を上げて応援したというエピソードもあります。地域の人に愛されているという実感は、コンビニのオーナーのモチベーションを上げますからね」と。
現在、筆者の住まいは都内にあり、徒歩で数分圏内にコンビニが2店。もう少し足を伸ばせば半径数百メートル圏内に6店舗もあるかなりの激戦区。
利用する立場からすると、選び放題で便利この上ないけれど、コンビニを経営しているオーナーさんにすれば、熾烈なパイの奪い合いを繰り広げているわけで、
そこのところを、意識してコンビニ愛を深めないといけないなと、気づいたわけです。
三橋さんいわく「コンビニの繁盛を左右する条件は、立地が7割なんです」と。
つまり、他店と差別化して品揃えを良くしたり、サービスを良くしてもそこは3割。それよりも立地条件が優先するとのこと。
なるほど、筆者の住まいは駅前の繁華街と、それに続くいくつかの商店街が交差するエリアにあるので、人の流れが絶えずあって店舗を構えるには好条件です。
でも、ほんの数百メートル圏内にひしめきあうより、それぞれにもう少し住宅地側に離れた方がパイの奪い合いは解消されそうな気がします。
ところが三橋さんがいうには「たとえば駅から家まで帰る途中、いくつかコンビニがあった場合、人はいつも通る帰り道沿いにあるコンビニを利用します。
もし、コンビニが横道にそれている場合、5メートル先なら立ち寄るのですが、10メートル先だったら立ち寄らない」のだとか。
いわれていれば、そのとおりです。
筆者が毎日のように立ち寄るコンビニAは駅からの帰り道にあり、横道にそれることもありません。もうひとつのコンビニBは、家から駅と反対方向にありますがよく利用する商店街に行く道すがらにあります。
で、地図を見てみたら、直線距離ではもっと近い距離にある店がありました。
でも、そこは普段あまり通らない道で、しかも横道にそれて曲がったところにあるので、確かに無意識にちょっと遠いイメージを持っていました。
我が家の周囲にあるコンビニはそれぞれ、一定の人の流れを確保しているので共存が可能で、最近、また一店舗増えたので、まあ、近所の立地条件はなかなかに良いといえるんでしょうね。
三橋さんはさらにこういいます。「7割は立地といえど、残りの3割もとても大事です。具体的には人なんです! 人がどう動くか? そこがまさに《コンビニ愛》にかかっているのです」と。
なるほど、日本のコンビニマーケットは目覚ましい発展を遂げたのも、実は残り3割にサービスのイノベーションを積み重ね、つまりは便利を進化させてきた結果だと思います。
そして、今、コロナ禍の時代を経験して、便利の真価を新たに問う時代になってきたというわけです!