宮崎県延岡市で保険業や資産運用のアドバイスに携わる小田初光さんが、地方で暮らす生活者のリアルな視点で、お金に関するさまざまな疑問に答えます。今回も前回に引き続き、「直販」と呼ばれる投資信託を運用する独立系運用会社にスポットを当てて、それぞれの投資信託について、パフォーマンスの中身を考察していきます。

  • 「直販」の投資信託の運用は、15~20年以上の長期を見据えている
  • 『さわかみファンド』は一定の現金を残しながら運用している
  • 現金比率を高めて、リスクを抑えた運用をできるのは直販ならではの特徴

直販の投資信託は「長期投資」を軸とした運用

【質問】
新NISAで乗り遅れないように始めようと投資信託を勉強しています。ある商品の購入を考えていますが、どうも直接販売と言われる投資信託みたいです。知人に訪ねてみたところ、「マニアックな会社より、有名な会社の方が安心できるよ」と言われています。やっぱり大きい運用会社の商品を買った方がいいのでしょうか?

今回は「直販」の投資信託のパフォーマンスを中心にして観察していきます。

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直販ファンドの運用会社と投資家との接点

「直販」の投資信託を運用する独立系運用会社とは?

【図表1】主な直販の投資信託
商品名 設定時期 基準価額 純資産総額 運用会社
さわかみファンド 1999年 40597円 4379億円 さわかみ投信
ありがとうファンド
(ファンドの宝石箱)
2004年 35160円 231億円 ありがとう投信
セゾン資産形成の
達人ファンド
2007年 43055円 3329億円 セゾン投信
浪花おふくろ
ファンド
2008年 30218円 19億円 パリミキアセット
マネジメント
ひふみ投信 2008年 73416円 1755億円 レオス・キャピタル
ワークス
ユニオンファンド 2008年 38412円 137億円 ユニオン投信
コモンズ30ファンド 2009年 52651円 635億円 コモンズ投信
結い2101 2010年 21407円 473億円 鎌倉投信

直販の商品を運用する8社の運用会社は全て、「パフォーマンスの最終的な判断基準は長期投資」と言っています。したがいまして、パフォーマンスの目的として、「15~20年後を見据えた運用」を目指していることを肝に銘じて見ていきたいと思います。そのために運用担当者が何を考えて運用を行っているもかも、判断基準の材料となります。

わかりやすく投資家にメッセージを伝えながらも、パフォーマンスを高めるために内なる努力をいかにやっているか? それは各社のアナリストたちがそれぞれの判断で銘柄を選定しながらやっているんでしょうと言われればそれまでですが、その細かい内容が、私たちを含めた個人投資家から見えるすべはありません。運用会社による企業の選定では、各社アナリストが15~20年後の企業の姿を思い浮かべながら、日々刻々と変わる情勢を踏まえて、商品のポートフォリオ(各銘柄へ投資する配分)に細かに落とし込んでいるのです。

私も以前話をした、コロナ禍になって「巣ごもり消費」の代表格だったアウトドア企業のスノーピークが、極度の経営不振のために株式公開買付(TOB)に至り、上場廃止を決めました。誰もがビックリしたのではないでしょうか? コロナ後のブーム沈静化で純利益が前期比99.9%減の100万円となり、上場廃止です。それまでに社長交代など、別の問題も提起されていた中でのことでした。

鎌倉投信の『結い2101』は、投資先としてスノーピークが上位にあったので、パフォーマンスに少なからず影響が出ているようです。このように短期的には潜在的なリスクはありますが、長期投資目線で銘柄をうまく選ぶことができれば、良いパフォーマンスにつながります。あらためて投資信託に投資する意義があると感じています。

直販の騰落率、純資産総額と現金比率を比較

現在、直販の運用会社が最も苦戦している「預かり資産」についても、ここから考えていきます。

各社のパフォーマンスを見ていくにあたり、騰落率を過去5年間で比較します。騰落率とは基準価額が一定期間内にどの程度値上がり、あるいは値下がりしたかを表す変動率のことです。

また、今回は長期投資を勘案して、純資産総額に対する現金比率も提示しています。現金比率が高いと、株価の上昇局面ではパフォーマンスが鈍くなりますが、下落局面でのリスク軽減につながるのは間違いなく、暴落時には安く、多くの株式を調達できます。現金比率も、これからの運用スタンスを予測できる要素のひとつになると思っています。

基準価額は5月14日時点で、純資産総額は直近をおおよそで示しています。運用会社の種別・設定順に、以下のようになりました。

【図表2】独立系(非金融系)の直販のパフォーマンス
商品名
(運用会社)
過去5年の
騰落率
純資産総額 現金比率
(キャッシュ
フロー等)
さわかみファンド
(さわかみ投信)
+75% 4398億円 11.83%
ありがとうファンド
(ありがとう投信)
+104% 231億円 2.20%
浪速おふくろファンド
(パリミキアセットマネジメント)
+52% 19億円 4.68%
※2024年5月14日時点
【図表3】金融系の直販のパフォーマンス
商品名
(運用会社)
過去5年の
騰落率
純資産総額 現金比率
(キャッシュ
フロー等)
セゾン資産形成の達人ファンド
(セゾン投信)
+108% 3285億円 1.8%
ひふみ投信
(レオス・キャピタルワークス)
+66% 1775億円 1.99%
ユニオンファンド
(ユニオン投信)
+69% 136億円 13%
コモンズ30ファンド
(コモンズ投信)
+106% 632億円 5.1%
結い2101
(鎌倉投信)
+19% 473億円 37.5%
※2024年5月14日時点

パフォーマンスを騰落率順に並べると、

① セゾン資産形成の達人ファンド
② コモンズ30
③ ありがとうファンド
④ さわかみファンド
⑤ ユニオンファンド
⑥ ひふみ投信
⑦ 浪速おふくろファンド
⑧ 結い2101

となりました。

ポートフォリオの比率の状況(資産配分比率、時価総額別比率)など細かく見ていけば、運用会社が何を中心に考えながら運用をしているのかが理解できますが、私が注視したいのは、純資産総額と現金比率です。

現金資産が多いのは、今の株価全般が高値なのか、高すぎて買えないのかなど、理由があります。預かり資産が少しずつでも増加しているか? 不測の事態があった場合にでも対処できるのか? 長期投資でのパフォーマンスアップには、やっぱり純資産総額と現金比率は重要項目です。

この中で運用実績が20年を超えるのは『さわかみファンド』と『ありがとうファンド』のみで、特に『さわかみファンド』は現金比率を徐々に高め、待機現金は500億円を超えて潤沢な資金があります。逆に、『セゾン資産形成の達人ファンド』は現金比率が少なめです。上記の①から③までの商品は、ある程度は資金を残しながらも、株式を多く組み入れてパフォーマンスアップしています。極端な話、上昇相場で株式パフォーマンスを使い切った結果とも言えます。

少し心配なのは『浪速おふくろファンド』で純資産総額、つまり投資家からの預かり資産に苦労しています。パフォーマンスは+51%ありながら、預かりに苦戦しているようです。今後の躍進に期待したいと思います。

また、『結い2101』はパフォーマンスが低迷していますが、現金比率が37.5%も高めとしていますので、今後は期待できると感じます。余談ですが、『結い2101』の現金比率は私が運用しているiDeCoの現金比率と同じだったのでなおさらでした。

現金比率を高くできるのが直販のメリット

これはあくまで参考値と思って下さい。今の騰落率で一喜一憂しないで、15年~20数年後に結果を出すための仕込みを、各社考えながら運用しています。そのためのポートフォリオを組んでいるのを理解しておきましょう。

現金比率を高めに設定できるのはアクティブ運用、直販投信のメリットだと私は思います。これからの直販に期待したいです。

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