宮崎県延岡市で保険業や資産運用のアドバイスに携わる小田初光さんが、地方で暮らす生活者のリアルな視点で、お金に関するさまざまな疑問に答えます。今回は、インフレで資産運用の必要性を理解しながらも、運用のため生活に余裕がなくなってしまうことを心配する相談者に対して、「使いながら運用する」という方法を提案します。
- 資産運用は景気サイクルに対応することが大切だが、お金を使っていくことも大切
- 老後は4000万円足りなくなるとの試算も。それでもお金を使う楽しみを捨てない
- 定年前はNISAで積み立て。定年後も無理のない範囲で就労して使えるお金を確保
インフレが続く日本は、まだ好景気とは言えない
【質問】
物価高でお金の価値が下がっていることはわかりました。お金の価値が減ることを防ぐため、資産運用もした方が良いことも同じくです。ただ、生活を維持するためだけに生きていくだけになっていくのかと思うと何かやるせない。そんなんで良いんですか?
日本政府にとってデフレ脱却は最重要課題であり、そのためインフレは当分続いていきます。
今の日本の景気サイクルを見ていきます。サイクルは一般的に10年で一回りと言われています。簡単に説明すると、①インフレ(好景気)、②金利上昇(日銀による金利引き上げ)、③デフレ(不景気)、④金利下落(日銀による金利引き下げ)の順となって、経済は成り立っています。
今の日本は、日銀が政策金利を上げたものの、歴史的には今も④金利下落のまっただ中といえる状況で、まだデフレ脱却の途中です。10年サイクルどころか、10年超にわたり金利下落のまま居座っている異常な事態ですね。
ここで重要なのは、運用するお金は常に、景気サイクルに合わせて適切な投資を行うことです。
中長期で考えると、景気はまだいいとは言えません。④日銀が金利を下げて量的金融緩和を行ったことで、株式市場にお金が流れ、株価にプラスに働いている金融相場です。
今までは、金融緩和効果と円安による企業業績の向上が株価の上昇につながり、日本の株式市場は業績相場をたどることになりました。一方、米国では景気の過熱感を抑えるために金利が引き上げられ、米国株は逆金融相場となり、株価下落を誘うような政策でも、景気の過熱は収まっていない状況になっています。
老後に必要なのは2000万円ではなく、4000万円?
何が言いたいかというと、これからはお金はさまざまなところで使っていきながら、インフレにも対応していく時代だということです。
今回相談者の質問にお答えができるとすると、残念ながらインフレがひどくなればなるほど、お金の価値が減るわけなので、普段の生活を変えないようにするには給与アップを望むか、節約となってしまいますが、そんな考えばかりでは面白くありません。何か希望がなければ、一生働き続ける選択しか残らない。
そこで、気持ちの面など少しでも「働くことで得られる幸せ感がある」ことを感じ取ってほしいと思い、そのためにはどんなお金の使い方をすべきかを説明していきます。
金融庁が約5年前に出した報告書「老後30年間で約2000万円不足する」の金額の根拠は、夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの年金生活者では毎月約5.5万円の不足があり、30年間生きたとすると2000万円が足らないという試算に基づいています。
金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」
ただし、これはあくまでも2019年時点のモデルケースです。当然、物価高などは加味されていませんし、年金受取人は労働者ではないので、働く人の賃金上昇や少子高齢化の進みなどによって年金額は改定されます。この改定は将来年金の目減りを防ぐためです。賃金が上がらないことには、年金も目減りしていくだけです。
そして怖いのは、認知症や病気、介護などの不測の事態は全く考慮されていないこと。今の時代、本当にゆとりある老後の生活ができるには、倍の4000万円は必要だという試算が出ているのも理解できます。
実際のところ、年金が支払われる年齢に達したときに、仮に4000万円が不足するとして、月にして10万円ほど発生する赤字をどうやって補てんして生活できるのか? ネガティブ思考に陥ればきりがありません。
お金は使ってこそお金。楽しみを得ることも大切
私は資産形成をするうえで何度も話してきました。「お金は使ってこそお金」。自身へのご褒美も含めて、お金を使うことをお勧めしています。
株式投資をやられている方は理解できると思いますが、売却益が出た場合、益を含めた金額で他の銘柄に投資をしてしまうのと、儲けたお金を有効に使うのでは大きな違いがあります。
他の銘柄に投資することにより将来の益がどうなるのかわからなくなるより、別枠で使う。元本に利息を付けた複利効果は薄まりますが、使うことで楽しみを得ることが可能となります。
「使っちゃったら減るだけじゃん」と思われるかもしれませんが、お金を増やすことだけに固執して「使う」ことが置き去りになっています。
確かに、「いつまでにいくらのお金を貯める」といった目標を立てるのも大事かもしれません。それ以上に、「そのお金をどう使うのか」が大切です。
定年までは長期積み立て。定年後は働きながらお金を使う
ここで私が考えるお金の運用法ですが、定年まではNISAなどを利用して、自分に合った投資信託で最低10~15年の長期積み立てをしていく。途中マイナス運用になっても、全て解約はしない。
そして定年後は、年金収入のみに頼るのではなく、給与を得るため、無理のないように働く環境も作っていく。就労することによって、社会との関わりを持てるし、健康管理もできる。
定年後は定期的なお金が少しでも入ってくることで、安心感でお金を使いやすくなり、幸せ感も増すはずです。
途中自分のためにお金を使っても、何よりもその頃には、定年前からの長期積み立てがボディブローのように効果が出ています。
私がそうだったように、長期のお金の運用に嘘はありません。利益があれば、自分のために使っちゃってください。不動産(家賃)のような定期的に収入をもたらしてくれる資産を保有して毎月お金が入ってくる仕組みのように、定年後に働くことでも毎月お金が入ってくる流れが作れます。
老後の蓄えだけでなく、今の生活も充実させたい。働く今だからこそ、お金を使ってさまざまな経験をしてほしいし、その経験は必ず生きてきます。幸せ感を増幅させながら充実した生活ができるでしょう。
お金は自分のためのお金です。自分が幸せになるためのお金です。忘れてはいけません。