投資を始める若い人が増えています。一方で、世の中にはさまざまな「投資」や「お金もうけ」の情報があふれていて、不確かな情報を信じてしまうと痛い目にあいかねません。資産形成層にとって、情報との向き合い方がこれまで以上に問われる中で、『お金が貯まる人は、なぜ部屋がきれいなのか 「自然に貯まる人」がやっている50の行動』の著者でもあるファイナンシャルプランナーの黒田尚子さんのもとには、資産運用の相談に来られる方が増えているそうです。

黒田尚子

黒田 尚子(くろだ・なおこ)さん
CFP® 1級ファイナンシャルプランニング技能士、消費生活専門相談員資格、NPO法人CNJ認定乳がん体験者コーディネーター、NPO法人がんと暮らしを考える会理事、城西国際大学・経営情報学部非常勤講師
1992年に大学卒業後、大手シンクタンク勤務を経て、FP資格を取得。1998年にFPとして独立。新聞・雑誌・サイト等の執筆、講演、個人向けコンサルティングなどを幅広く行う。2009年にがん告知を受け、自らの体験をもとに、がんなど病気に対する経済的備えの重要性を訴える活動を行うほか、老後・介護・消費者問題にも注力。

「ばくぜんとした不安」とYouTubeが投資の入り口に

最近はコロナ禍の影響もあって、若い世代で投資に対する関心が高まっているようですが、ファイナンシャルプランナー(FP)のお仕事をされていて、たとえば相談に来られる方の層が変わったとか、そうした変化はあったのでしょうか。

黒田さん 以前はファミリー層の方が多かったのですが、最近は独身の若い男性の方が相談に来ることが増えましたね。同じおひとりさまでも、女性は将来に対する不安を感じて相談に来られるケースも以前からあったのですが、このところは男性が多くなっています。

きっかけとしては、やはり周りに投資を始める方が増えてきたことが大きいみたいです。在宅勤務が増えて時間があるから自分も証券口座を作ってみようということで、投資やお金のリテラシーはそれほど高くない印象ですね。

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それとYouTubeの影響もあると思います。投資を勧める動画を見て、「この人の言ってることは本当に正しいのか?」と疑問に思ったから、中立的な立場の独立系FPに相談したいということで来られる方も増えています。投資初心者なのにインデックスファンドの存在を知らず、やるのは現物株だけという女性の方もいて、どこで投資を勉強しているのかと聞いたら、YouTubeで見たと言っていました。

動画サイト
YouTubeなどの動画サイトを見て投資を始めたという人が増えている
NiP STUDIO / Shutterstock.com

いつまでにいくら貯めたいとか、そうした具体的な目的を持って資産運用をしているというより、みんなやってるから、将来がなんとなく不安だから、ということで投資を始めたり黒田さんにご相談されたりしているんですかね。

黒田さん 今の若い方たちは、年金が今以上にはもらえないことを最初から知っているから、ばくぜんとした不安を抱えているのだと思います。とはいえ若いうちから将来の人生設計まで考えるのは難しいですから、どちらかというと「何もやらないより、何かやっておいた方がいい」という感覚だと思います。

将来のためにどんなお金の準備をすればいいかは、ネットでもYouTubeでも確かにいろいろな情報がありますが、それはあくまで一般的な情報であって、そのまま自分にあてはまるとは限りません。特に保険は、その人のお仕事や収入によって何が合うかが変わるから難しいですよね。

トラリピインタビュー

「権威」を信じやすい人はネットの情報を見ない

昔と違ってネットにはいろいろな動画が出回っていて、これらの情報をうまく取捨選択することが今まで以上に問われる時代だなと感じています。間違った情報にまどわされないために、どんなことに気をつければいいのでしょうか?

黒田さん 「すべての情報は疑え」というのが前提だと思います。

新型コロナが流行し始めたとき、「コロナはただの風邪」とか「ワクチンは打たない方がいい」とか、医療者でありながらそういう情報を拡散する人がいました。よく見たら怪しい情報なのに、医師のような権威のある人が言うと、信じてしまう人もいます。

私は過去に乳がんを経験しているのですが、がんに関する医療情報もネットを調べるとたくさん出てきます。がん告知を受けた直後に医療者から言われたのが、「黒田さんがもしネットの情報を信じやすいタイプなら、しばらくネットは見ない方が良いでしょう」ということでした。自分のがんに関する情報を一番持っているのは目の前の主治医や看護師です。彼らの話を聞かず、ネット情報に振り回されてはいけません。これまでに怪しい情報を信用してしまって失敗した経験がある方は、そういう情報は見ないようにするといいと思います。

誤った情報
インターネットには誤った情報も多い。本当に信頼できる情報なのかを確認することが大切

確かに、一時期ネットにはコロナやワクチンに関する悪質なデマが目立ちました。デマを信じてしまうのは、それが今の自分にとって都合がいい情報だから、信じると気持ちよくなれるから、という動機もあるような気がします。そういう心理に逆らいながら、耳障りのいい言葉でも疑うようにするのは難しいのかもしれないですね。

黒田さん 今は「いかに情報を得るか」より、「自分に必要のない情報をいかに捨てるか」という技術の方が大切だと思います。基本は一次情報を当たることですね。医療も金融も、どこが情報源で、どういう立場のどんな人がいつ発したものなのか、常に確認することが大事だと思っています。私は情報を発信する立場の人間なので、自分が取材して見聞きして、エビデンスを確認できた情報だけを伝えるようにしています。

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