豊かな人生とは何をもって言うか、その指標はお金だけでしょうか? ビジネスを成功させた人に聞くと「人に恵まれた」エピソードが必ず語られます。コロナ禍を体験し、先が見えない世の中だからこそ「人と繋がる」ことの大切さが身に沁みます。“人”という字が支え合っているように、この先どんな人と出会っていくかは、人生において大切な自己投資になります。この連載では、専門知識に秀でたスペシャリストとの出会いがもたらすサクセスへの道を探求していきます。第3回は思わぬトラブルに巻き込まれたときの対処に強い味方、弁護士の野島梨恵さんに聞く自己投資術!(聞き手=さらだたまこ)
野島 梨恵(のじま りえ)さん
東京大学法学部卒業、司法修習を経て2005年弁護士登録(第一東京弁護士会)。青森地裁で修習後、長島大野常松法律事務所で上場企業の企業法務などを経て、北海道士別市で法律事務所を開業、士別市以北に女性弁護士はいなかったことから、「最北の女性弁護士」と呼ばれた。2018年から新都心法律事務所へ。現在に至る。ニッポン放送「ラジオ人生相談」に回答者として出演中。
受忍限度と違和感でトラブル回避
人生にトラブルはつきものです。
当事者でなくても、何らかのもめ事に巻き込まれてしまうこともあります。
面倒なことにならないうちに、なるべく穏便に回避・解決したいと思うのが人情ですが、法律が絡んだ厄介な訴訟問題に発展することも!
素人の知識では手に負えないことは、やはり法律の専門家、弁護士さんに相談するのが一番。
とはいえ、普段、弁護士さんに縁のない生活をしていると、なかなか敷居が高いイメージがあります。そこで、実際に弁護士事務所にお訪ねして、お話を伺うことにしました。
東京・西新宿にある「新都心法律事務所」の弁護士・野島梨恵さん。
長身でスレンダーな野島さんは、そのまま弁護士ドラマの主人公が演じられそう。趣味は、登山というアクティブなハンサムウーマンです。
「昔は、弁護士の仕事といえば、『金と女の後始末』っていわれましたけど、今の時代、身近な日常生活で弁護士が関与する仕事といえば、【借金・債務問題】【離婚・男女問題】そして職場の【労働・雇用】に関するこの3つのトラブルに大きく分かれますね」と野島さん。
法律がからむトラブルはその他、事故処理をはじめ、なんでも扱うけれど、やはり相談が多いのは、身近な生活の中に起こる様々なトラブルとのこと。
このトラブルを回避するのに、日頃から心がけておくことを、まず聞いてみました。
「多くの人は、何かいやな思いをすると、やれパワハラだ、モラハラだとして、怒りにまかせて『訴えてやる!』と騒ぎ立てます」と野島さん。
しかし、そのいやな思いは一方的なハラスメントではなく、知らず知らずに相手にもいやな思いをさせて、お互い様だったり……。
そこで、まず、考えてほしいのが「受忍限度(=社会生活を営む上で、我慢するべき限度)を超えているかどうか」ということ。
やはり、感情任せにしないで、冷静に客観的になることが必要なのですね。
もちろん我慢にも限界があるわけで、野島さんは「何か違和感を抱いたまま、我慢してしまうとそれがトラブルの火種になる」といいます。
たとえば、理不尽とも思える理由で給与をカットされたり、職場の待遇が悪くなっても、「あれ? なんか変だ」と思いながらも、上司や周囲の圧を感じて、黙って受け入れてしまった……などと言う場合。
暫くたってあとから、訴えても「今までずっと異議を申し立てていなかった」、すなわち黙認していたとされ、訴えが退けられてしまうそうです。納得してないのだけれど、反論もせず、従ってしまうと、泣き寝入りになる!ってことですね。
それは、男女の間でも同じ。
たとえば、交際中の彼は独身だというけど、なんとなく違和感を抱いたら、そのままにはしてはいけないのだと。「聞きたいことがあるのに、面と向かって一言も言えないなんて、それは本当の恋人同士ではない」と野島さん。
ただ、聞くにきけずにずるずると、というのは周りを見渡しても、案外あるあるなんですよね。だからこそ、一人で手をこまねいているのではなく、弁護士さんに相談してみるべきなのです。
「法的に損害賠償が成立するかどうか、素人ではわからないので。たとえば、どこまでが受忍限度で、それを超えたらパワハラとして訴えても勝ち目があると判断できるか?……我々弁護士であれば、たくさん判例を知ってますから」と、野島さん。
もちろん「その程度であれば、法的な責任が発生するほどのことでもない」と諭すこともあるといいます。
本来は、当事者同士がきちんと話し合いの場を持って、解決できればそれにこしたことはないのですが、感情が先立って売り言葉に買い言葉のケンカになってしまっては、もっと泥沼化してしまいます。
話し合うときも「角が立たない話し方、言いまわし」など、経験豊富な弁護士さんであれば、アドバイスもしてもらえます。
長い人生を考えると、いざというときに伴走してもらえる弁護士さんと知りあっておきたいものだと、つくづく感じました。