最近よく目にするFIRE(経済的独立と早期リタイア)という言葉。会社に縛られない自由な生活に憧れる人は多いですが、その道のりは決して平坦ではありません。FIREを実現するには、何から始めればいいのでしょうか? 会社員生活から独立して、自由な生活を手にした投資家の遠藤洋さんに教えていただきます。
第4回テーマ
会社員としてこのまま仕事を続けても、自由な時間を増やすのは難しいから、いずれは独立したいけれど、実際に会社員が独立するのは簡単ではないはず……。遠藤さんが独立するまでにやってきたこととは?
会社や職種より「いっしょに働きたい人がいるか」
僕が最初に起業や独立に興味を持ったきっかけは、就職活動までさかのぼります。
企業の合同説明会に参加して、大企業のブースへ行って話を聞いてみたのですが、あまりピンときませんでした。きれいな大きいブースで、立派な資料を見ながら説明を受けても、どの会社も当たり障りがないというか、きれいな部分しか見せないというか、とにかく僕にとっては、心に響くような話はありませんでした。
もう帰ろうかなと思ったとき、ベンチャー企業のブースが目に留まりました。そのブースはとても狭いスペースで、参加者に配る資料もありません。説明は人事部の人ではなく、会社の社長自らがやっていました。話を聞いてみると、大企業と違ってとても興味深く、心に響くものでした。「経営者の中にはこういうかっこいい大人もいるんだな」ということを知りました。
それ以来、就職先をベンチャー企業に絞ることにしました。会社を選ぶ基準は、「いっしょに働きたいと思える人に出会えるか」。多くの就活生はどこの会社に入りたいか、あるいはどんな職種がいいかを基準に選ぶと思います。僕は違いました。会社も職種も何でもいいと思っていました。最終的にはIT系の会社に入ることになりましたが、不動産会社の営業職などもチェックしていました。面接などを通じて、おもしろいと思える先輩がいるかどうかが僕にとって重要でした。
会社員生活の延長線上には「自由な時間」はない
大学を卒業してIT系のベンチャー企業に就職したのですが、会社に入る前にいくら「いつかは独立する」と考えていたとしても、実際に働いてみると日々の忙しさに追われて、あっという間に2年、3年が過ぎていきました。
仕事そのものは楽しかったし、待遇もよかったので、会社に対して特に不満はありませんでした。そんなある日、ふとしたきっかけで「独立したい」という気持ちが呼び覚まされることになりました。
ある朝、いつものように会社へ行こうとしたところ、あまりに天気がよかったので、会社を素通りして、そのまま公園まで歩いたことがありました。そのときに、「自分はこういう人生を望んでいる」と気づきました。毎日決められた時間に働くのではなく、散歩したいと思ったらふらっと散歩に行けるような人生。そして、会社員生活の延長線上には、そんな自由な人生がないことにも気づいたのです。
僕の人生にとって、どういう状態が理想なのか。何を目指すべきなのか。「やりたいと思ったことを、やりたいときにできること」だと思いました。よくたとえとして挙げるのが、「お金がある大学生の夏休み」です。昔友達と「中華食べに行きたいね」と話をして、それなら中国に行こうということでパスポートと財布だけ持って飛行機に乗って上海へ行って、本場の中華料理を食べようとしたことがありました。結局そのときは実現できませんでしたが
、そんなふうに、やりたいことをすぐにできる人生にしたいと思ったのです。
お金と時間の自由を手に入れられる稼ぎ方
そのためにはお金だけでなく、自由な時間も必要です。たとえ会社員としてがんばって働いて、出世して役員になって、年収が何千万円になったとしても、会社の中で責任ある立場になればなるほど時間の自由はなくなります。これでは意味がありません。お金も時間も手に入れるために、独立して自分で稼ぐしかない、と決意しました。
だからといって、独立して稼げるようになれば何でもいいというわけではありません。たとえば、稼ぐ手段として料理人のような職人を目指した場合、仮に成功したとしても、時間の自由を得ることは難しいと思います。飲食業であれば、シェフになるのではなく、シェフを雇う経営者になれば、時間の自由が効く働き方も可能になります。
同じ飲食業界でも、職種によって得られるものが違う
- 料理人→始めることは比較的簡単で、腕前が認められれば収入の大幅増や社会的地位の向上もありえるが、自由に使える時間は少ない
- 飲食店の経営者→始めるのが難しく、成功するのはさらに難しいが、うまくいけば自分は毎日働かなくてもよくなる
僕にとって、起業することは目的ではありませんでした。投資もそうです。目的はあくまで、お金と時間の自由を手にすることです。自由を実現するためのツールとして、僕にとってはたまたま起業や投資が合っていただけのことです。
そして、僕が起業して最初に始めたビジネスが「写真配信サービス」でした。結果としてこの事業はうまくいかなかったのですが、決して無駄な経験ではなかったと思っています。次回は、起業にあたってどんな準備をしてきたかということと、起業を通じて気づいたこと、考えたことについてお話ししたいと思います。
- 大企業の担当者ではなく、ベンチャー企業の経営者を見て「こういう人と働きたい」と思った
- 「やりたいと思ったことを、やりたいときにできる」未来のために何をすべきか?
- 独立して稼げればいいわけではない。お金だけでなく「時間の自由」も得られる稼ぎ方を選ぶ