宮崎県延岡市で保険業や資産運用のアドバイスに携わる小田初光さんが、地方で暮らす生活者のリアルな視点で、お金に関するさまざまな疑問に答えます。今回は、小田さんが同級生から聞いたお金についての本音から、退職後の生活とお金について、今何をやれるか、何が大切なのかを考えていきます。

  • たとえ借金がなくても、退職後は収入が減り、お金と向き合うことが必要になる
  • ストレスがない独身生活は楽しいが、このままではいつかお金を使い切ってしまう
  • 結局は働き続けることが最善。退職金の一部はNISAで積立投資したい

退職後の支出と収入をどうするか?

【質問】
運用、運用と言ってるけど、ちゃんと生活できてるし、めんどうだし、何とかなってるし、退職金も少しは出たから大丈夫じゃない? 今が良ければ良いよ、金もないし。

この言葉、未だに出てくる生の声です。先だって同級生と話すことがあって、話の中で年金がいくらもらえるかになったことからの話題でした。「~だし」の三連発には参りましたが、退職およびリタイアが近づく年齢である私たちにとって、退職後のお金をどうするかは死活問題と思います。ねんきん定期便もちゃんと見もしないなど、今が困ってないから大丈夫! ……何と楽観的なのかと思います。

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借金もなく、お金にゆとりがあり、楽しみながら終末期が突然訪れての最後であれば良いのですが、そうは問屋が卸しません。「生き続けなければいけない」のが、日本国民の使命と言ってもいいかもしれません。しかも30年超続いたデフレ経済による「お金ボケ」が浸透しているわけで、「お金もないのに」と言いながらも、ただ今を楽しんでいるのでなおさらです。危機感が実感できるまでは、悪い言葉で言えば国は少しでも税金が欲しいので、国民は働き続けることを選択してください、というわけですね。間に合えば良いのですが……。

60歳を超えれば年金額はほぼ確定しています。「65歳以降、受給の繰り下げをするのか?」を含めて考えなければいけません。仕事もできることとできないことがハッキリわかるようになっていきます。ご自身で自覚し、仕事量を減らしながら、お金と向き合うことで前に進むしかありません。

残念ながら、年とともにやらなければならない事案は増えていき(家族環境など)、「支出を減らす」とは逆行していきます。減らす勇気が、バランスの取れた生活環境につながるのだろうと感じます。「今が良ければ」は、自分さえよければそれで良いという無責任な回答でしかないのです。

こういう意識では地域格差が広がっていくのは当たり前のことで、地方での親から子へと金融リテラシーの伝達など皆無に等しい状況となります。金融リテラシー習得に向けてやっとこ腰を上げた高校生への道徳的授業も、聞くところによると教科書の読み聞かせになっているなどと聞いています。国も本気でやりたければ、今年4月に開設された金融経済教育推進機構(J-FLEC=ジェイフレック)のような頭でっかちの中立的有資格者でなく、少なくとも10年くらいの運用経験者をアドバイザーに据えるなどしないと、対応できるわけがありません。お金の運用は、経験してないと理解できないことが多くあります。試験だけ受かって理解できれば皆、億万長者になれてしまいます。まず、追いついていかないでしょう。

人生100年と言われ、働き続けるしか選択幅がなくなっている今日ですが、ここにきてビジネスケアラー(仕事と介護の両立)など、仕事どころではない難題が降りかかっています。そこで今回は、お金の運用の大切さをもっと身近に感じてもらえるように、定年を迎える方たちが「何を考え、何をやれるか」を見ていきます。

今が楽しくても、やがてお金は足りなくなる

ここからは相談者63歳の生活環境から「何が大切か」を考えていきます。

相談者の生活環境
・お一人様
・60歳で定年退職
・600万円の退職金有り
・現在の給与17万円(手取り14万円)にて雇用延長中
・65歳から受け取る予定の年金額は、月に約14万円
・預貯金のほかに金融資産なし
・持ち家有り、借入金なし
・趣味はトレーニング、ドライブ

まずは「預貯金がいくらあるか?」が出発点となりますが、退職金の600万円を普通預金に入れっぱなしで、毎月取り崩しているそうです。現在は550万円くらいとのこと。保険は終身保険200万円が払い済みと、医療保険のみ。ざっくりこんなところです。

相談者は持ち家で一人暮らしであるために、今は生活には困っていないそうですが、どうでしょうか? 金銭面で言えば、足りなくなるのは明白です。不足金については今回触れませんが、退職金を取り崩していっても何年持つかわかりません。「何とかなる」と言い続けて、視野も狭く聞く耳を持たなかったので、それでも大丈夫と思っているのですが、まあ60歳を超えているので、頭も固まっていてしょうがないですね。

結局は働き続けることと、できればNISAで積立投資

ただ、うらやましいところもあります。「我慢をしないで、楽しいことだけやっている」ことで、ストレスがほぼ本人から感じられません。ガツガツ感もなく、心配してこちらが損しているような気もしてきます。トレーニングもやっているため、見た目も若く体力もあり健康そうです。「やりたいことだけやる」を実践しています。

トレーニングをする高齢者
ストレスがなく健康であることはすばらしいけれど、お金も大切です

数年前に熟年離婚をして寂しいのかと思いきや取り越し苦労みたいで、夫婦間ギクシャクして嫌な思いをして付き合うぐらいなら、孤独を楽しむことが良かったみたいです。自分にとって余計な人間関係を維持しなければ、時間の使い方も変化します。会社以外の人間関係に時間を使うことで、「自分の居場所」を増やせるという選択にもなってきます。両親も他界し子供も自立していますので、仕事と介護の心配はほぼ無縁と言っていいでしょう。

ただ、おそらく彼は、楽しんでお金を使い切ってしまうでしょう。彼の最大のデメリットは途中でなくなるお金、そして自身が健康を害して介護状態になるかもしれないことで、果たして本人のお金だけで、楽しいまま終末期を完結できるのでしょうか。お金がないのですから、子供に介護を期待してはいけません。介護保険の利用など、あらゆるセーフティーネットを使うことも重要となります。

結論として、働き続ける選択が一番良いことになります。国の政策に乗るしかない、これに尽きます。彼には一言、これからの物価高は「退職金の3分の1でいいから、NISA制度を使って積み立てしとった方が良いよ」と付け加えておきました(笑)。

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