投資家のアドバイスを受けて創業を決断
起業のきっかけについて教えてください。
阪井 大学時代に中小企業でアルバイトをした経験が原体験にあると思います。よく知っている大人が資金繰りで苦しんでいる様子を目の当たりにしたときは、何とも言えない気持ちでした。
自分が働きだしてからも、仕事をする中で長い支払いサイクルについて理不尽さを感じることが多かったことも大きいです。日本の商習慣上、当たり前のように受け入れられていますが、世の中の企業の90%以上は中小企業なので、「資金繰りの大変さは見えてこないだけで、どこにでもあるんじゃないか?」と次第に考えるようになりました。
仕事の報酬を受け取るのが、1ヶ月や2ヶ月後なんてことは今まで当たり前だった。その間の支出のせいで生まれる、資金繰りに悩む時間や機会損失をyupは改善していく
また、個人事業主としてアパレルのECサイトを運営する友人から、「儲かっているけど、代金受取は商品の仕入れをしてから3カ月、遅いと半年後にズレるから、運転資金の確保がキツイ」ということをよく聞いていたので、最初は「友達が使って良かったと思うようなサービスができないかな」といろいろなサービスを構想していました。
なぜ、起業を決断したのですか? また、メンターなどからアドバイスはもらいましたか?
阪井 2018年8月に『NewsPicks』内で開催された「VC高宮慎一の『白熱!起業家道場』」というイベントに応募したことが転機になりました。イベントでは、メルカリやカヤックなどへの投資家で知られるグロービス・キャピタル・パートナーズの高宮慎一さんに無料で事業計画のプレゼンテーションが行えるうえ、リスクの高さや資金調達のポイントなどのフィードバックを受けました。
限定15名ですが、ニューズピックスで「白熱!起業家道場」ということで、少人数形式で事業計画やピッチを磨き合うイベントをします!参加特典で近日刊行の拙著「起業の戦略論」の初稿もついてきます!我こそはという猛者お待ちしています?https://t.co/4CEJzVcFPj
— 高宮慎一 @ ベンチャーキャピタル (@s1kun) October 31, 2018
さまざまなスタートアップ企業の支援をしてきた投資家から具体的なアドバイスを受けたことで、「どうしても起業したい」「自分の考えたサービスを世の中に提供したい」と強く思うようになりましたね。
その後、2018年12月に創業期の投資・育成に特化したベンチャーキャピタルである「インキュベイトファンド」にプレゼンする機会があり、そこで出資を検討してもらえることになったので、2019年の年明けからミーティングなどを重ね、2月に会社を設立。4月から一人でサービス開始に向けて本格的に動き始めました。
他のベンチャー起業家もそうですが、具体的なアドバイスや資金面の支援があると、どんどん話が進みますね。
阪井 気付いたら資金調達が終わって、サービスのβ版を作ってといった感じで、あっと言う間に時間が過ぎていきました(笑)。
8月頭には、 まだプロダクトができていない状態でしたが、サービスのLP(ランディングページ)を作って事前登録の受付を開始しました。「真新しいサービスだし、10件から数十件あれば……」と少し弱気だったのですが、β版開始までに100件以上の登録があり、「これはニーズがあるな」と手応えを感じたことを今も覚えています。
個人の信用情報を損なわない、ポジティブな資金調達
どんなタイプの職業がユーザーに多いですか?
阪井 デザイナー、エンジニアなどのクリエイターやコンサルタントといった、フリーランスの方に多く利用していただいています。
ユーザーからのヒアリングは今も定期的に行っています。直近では、「銀行からの融資は確定していたけど、着金の日程が必要な予定より3日ズレてしまうため、『yup 先払い』を使ったところ、問題なく事業を続けることができた」という言葉をいただけて嬉しかったです。
また、既存のファクタリング事業者を利用した経験があるユーザーからは、「登録後、請求書をアップしてから入金までがあまりにも早かったのでびっくりした。怪しくないか心配で電話をした」という言葉もいただきました。
起業にあたり一番大変だったことを聞くと、「個人投資家やファンドなどの出資者にyupのサービス内容や自分が実現したいことを理解してもらうこと」と答えた阪井氏。何度もミーティングを重ねた甲斐もあり、今は追加の資金調達も進んでいるという
便利さだけでなく、驚きとともにサービスを利用していただけており、大変嬉しく思いますが、同様の問い合わせはこれからもあるでしょうから丁寧に応対していきたいです。
実際のところ、フリーランスの方はどうやって資金繰りをしているのでしょう?
阪井 サービス開発にあたって、100人以上のフリーランスの方にヒアリングをしましたが、よくあるパターンは「親に借りる」でした。他にも、複数のクレジットカードを駆使し仕入れ品の支払いを行ったり、キャッシングやカードローン、消費者金融でお金を借りたりして資金繰りをされていました。
「現金を調達する」だけなら、キャッシングやカードローン、消費者金融を使ってもいいと思います。ただ、それらのサービスを利用すると取引情報が信用情報機関に登録されてしまいます。これにより、場合によっては住宅ローンの審査が通りにくくなる、新しいクレジットカードが作りにくくなるなど、思いもよらないところにネガティブな影響が及ぶかもしれません。
自分の信用情報が低く評価されると、事業や生活のみならず、ライフプラン自体に影響が出てしまう(※写真はイメージです)
「yup」が提供するのは「お金を借りる」ではなく、すでに売り上げが立っている案件の支払いを「先に受け取る」というサービスなので、ポジティブなお金の調達なのかなと考えます。
フリーランスが仕事に打ち込める世界を目指す
今後はどのようなサービスをリリースする予定ですか?
阪井 ユーザーからの振込を口座引き落としにするシステムは早々に実装していきたいです。サービスの運用が軌道に乗ってきたら、例えば「クラウドワークス」や「ランサーズ」など、フリーランスの方がよく使うプラットホームサービスと提携がしたいです。
他方で、金融機関からの融資を受けられない、法人クレジットカードが作れない、そもそも銀行口座を開設できないなど、フリーランスの方が抱えるお金の課題はたくさんあります。中長期的には、「yup 先払い」の利用で蓄積した与信データや支払い実績に基づく信用情報などを基に、金融機関のサービスを受けやすくするようなサービスも積極的に展開していきたいです。
フリーランスの方々がお金の悩みに振り回されず、本来注力すべき仕事に打ち込める。フリーランスと業務の発注者や金融機関との間に「yup」がクッションとして存在することで、そんな世界を実現できたらいいなと思います。
Fintech業界を見渡してどんな印象を受けていますか?
阪井 個人的には、日本にはまだまだフィンテックサービスが足りないと感じています。アメリカやヨーロッパと比べて、ユーザーはもちろん、フィンテック分野で起業を目指すプレイヤーも少ないです。
そうした中で、当社のようなスタートアップががんばっているところを見てもらい、「自分もやってみよう」とフィンテック分野で起業する人が増えたら嬉しいですね。一緒になって、産業としてフィンテックを盛り上げていきたいです。
大企業向けのITサービスは充実してきていますが、やはりスモールビジネスを営む方の生活をよくするサービスは足りていないと思うので、そうした方にとって使いやすくて、商売にもプラスになるようなサービスをやりたいという気持ちが強くあります。
また、働き方は自由になり始めていますがお金の受け取り方は全く自由になっていないので、働く場所や方法だけでなく、お金の面も気にせず自由に働ける世界にしていくことが私の使命だと考えています。