ロシアのウクライナ侵攻によって国際秩序が大きく揺らぎ、金融市場にも動揺が広がっています。株式市場や為替市場に加え、商品(コモディティ)相場も大荒れの展開となる中で、個人投資家はどのようにマーケットと向き合えば良いのでしょうか。エコノミストのエミン・ユルマズさんに聞きました。(取材:2022年3月22日)

新しい冷戦構造が鮮明に

ロシアのウクライナ侵攻について、どうご覧になっていますか。

エミンさん 短期的に収束することはなさそうです。侵攻自体が長引く可能性もありますし、仮に停戦が成立したからといって直ちに問題が解消されるわけでもありません。ロシアがクリミア半島を含めて完全にウクライナから撤退することは考えにくく、民間人を犠牲にした戦争の責任をどう取るのかという問題も残ります。プーチン政権が終わらない限り、経済制裁はなくならないでしょう。

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今回の事件は、1950年の朝鮮戦争を彷彿とさせます。東西の冷戦構造が鮮明になった当時と同じように、この戦争を機に「冷戦2.0」が始まると見ていいでしょう。

今後、ロシアは世界経済から切り離されます。そこで注目されるのが中国の出方です。足元ではロシアに肩入れしないスタンスを取ろうとしていますが、覇権国家を目指す中国がアメリカの言うことを素直に受け入れるとは思えません。西側諸国に完全に同調することはなさそうで、場合によっては中国も経済制裁の対象となる可能性があります。中国は台湾との対立が先鋭化しており、侵攻の可能性がないとも言い切れません。そうなれば、現在ロシアで起こっているのと同じことが中国でも起こります。すなわち、中国における海外企業のビジネス停止、撤退です。

ロシアや中国といった強権国家への経済的依存にはリスクがあることは以前から指摘されていました。脱ロシアのみならず、脱中国の準備があるのかどうか。世界経済はその覚悟を示す局面に差し掛かっていると思います。

ロシア経済の破綻は大きなリスク要因

ロシア・ウクライナの問題に関して、金融市場にはどのようなリスクがありますか。

エミンさん 直接的には、ロシアのデフォルトが懸念されます。対外債務はそれほど多くないものの、1.5兆ドルの規模を有するロシア経済の破綻は大きなリスク要因です。ロシアと商売できなくなれば、経済的な結びつきが強いドイツの自動車や家電メーカー、金融機関などは大きな痛手を被るでしょう。

もうひとつの問題は、ドル高が加速していることです。原油や金の価格上昇が注目されていますが、ロシアとウクライナは小麦、トウモロコシの輸出大国でもあり、これらの価格も急騰しています。コモディティは基本的にドル建てで取引されるため、コモディティ高がドル高を加速させ、特に新興国のドル不足が顕著になっています。ロシアのウクライナ侵攻は、当事国のロシアのみならず、他国の債務危機まで引き起こす可能性があるということです。実際、デフォルトに対する保険料の意味合いを持つCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)はロシアだけでなく周辺の新興国も上昇しており、リスクの高まりが見て取れます。

食料価格の値上がりは人々の生活にも影響を与えますね。

エミンさん パンや麺類の原料となる小麦価格の高騰は大きな問題です。2010年から2012年にかけて起こった民主化運動「アラブの春」は小麦価格の高騰が一因という見方もあります。食料品の値上がりが社会不安につながることは少なくありません。今回の一連の問題が思わぬ方向に飛び火する可能性も考慮しておくべきでしょう。

穀物イメージ
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