伝統と革新の按配に必要なこととは?
居川さんが掲げる「伝統と革新が織り成す新しい和菓子づくり」には、深い思いがあります。
「口に入る食品ですから、安心安全で高品質な素材にこだわり続けてきました。農家さんが大切に育ててくださったすばらしい素材の魅力を最大限に生かした和菓子を作り続けていますが、コロナ禍の影響、また後継者問題もあり、農家さんを守っていかないと、店の伝統も守れないという危機感もあって、だからこそもっと多くの方に禄兵衛を知っていただきたいと思いがあります」
居川さんが全国に打って出る覚悟は、愛する郷土の地域活性化に他ならないのです。
たとえば、餅生地は信頼できる農家から仕入れる「滋賀羽二重糯米」。また、みたらし団子の醤油も地元老舗の「ダイコウ醤油」にこだわるといった具合に。
また、草餅のヨモギは自社畑で社員たちが育てているので、もっとも薫り高い時期に収穫するのだそうです。
とはいえ、コロナ禍の真っ只中を乗り切るのは大変な苦労もあったといいます。
「コロナ前に東京のお店や近隣の観光地でも扱ってもらえるように販路を広げたものの、コロナ禍で商品が全く動かなくなりました」
しかし、居川さんはクライドファンディングや、ネットショッピング、またSNSを利用して、禄兵衛ブランドの周知に力を入れました。
Twitterで『福みたらし』の新たな表情デザインを募集したのも話題となりました。
「ネット上のさまざまなツールを駆使することで、お客様の声も直接聞けますし、たくさんの発見があります。結果、商品に反映できるので……」
苦境に陥っても何か突破口を見つけて、その先に行く!
その直感も五感に加えて大事なことだと、居川さんの行動力を見てそう思いました。
和菓子界にニューウエーブをもたらした菓匠禄兵衛のふるさとも、全国にファンが広がることで活気づく、その相乗効果は大いに期待できると思います。
もうひとつのビジネスは聴覚と視覚で!
居川さんは、コロナ禍の最中に新しいビジネスを立ち上げました。
「匠sound株式会社」というイベントの演出を担う会社。
「実は家業とは別に、20年くらい前からコンサートなどのイベントの音響を仲間と手がけてきた実績があります。きっかけは、外注すると高くつくけど、自分たちでやれば、クオリティは高く、経費は抑えられるからです。
最近は大型LEDビジョンを使った視覚に訴えるイベントの受注も増え、また、コロナで普及したZoomのイベントで配信の依頼がきたり……それで法人化したんです」
という居川さんのもうひとつのビジネスは、聴覚と視覚に訴えるイベントの演出。
すでに有名アーティストが滋賀県でコンサートを行うときはご指名も多く、また滋賀県最大の5000人規模のよさこいイベント「あっぱれ祭り」も手がけ、また県外、東京などで行われるイベント……とこちらのビジネスも広がっています。
和菓子とイベントの演出は、一見、共通点はないように思えますが、五感を大切にするという共通項があります。
筆者もクリエイティブな仕事なので、五感を研ぎ澄ますことの大切さを痛感はしていますが、感覚ごとにどう使うか?
改めてじっくりと戦略を練ってみようと思います。
居川さんに学んだのは、伝統に敬意を払いつつも失敗を怖れないチャレンジ精神と、人と繋がるチームビルディングによる五感の使い方です!