最近よく目にするFIRE(経済的独立と早期リタイア)という言葉。会社に縛られない自由な生活に憧れる人は多いですが、その道のりは決して平坦ではありません。FIREを実現するには、何から始めればいいのでしょうか? 会社員生活から独立して、自由な生活を手にした投資家の遠藤洋さんに教えていただきます。

第7回テーマ

最初に立ち上げたビジネスはうまくいかなかったものの、そこからどのように自分のビジネスを軌道に乗せて、FIREを達成したのか?

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単価が低いビジネスモデルは個人では難しかった

遠藤洋
遠藤 洋
投資家
投資コミュニティixi主宰

会社を辞めて独立して、当初は写真配信サービスというビジネスを展開していたのですが、なかなか売上が立たず、かといって貯金を切り崩して生活するのは良くないと考えて、自分のビジネスと同時並行して、業務委託で採用支援の仕事をしていたことを前回書きました

水への投資 世界的に不可欠な資源への投資機会 BNPパリバ・アセットマネジメント

僕が会社を辞めて独立した目的は、お金と時間の自由を手に入れるためです。業務委託の仕事の延長線上に「本当の自由」がないことはわかっていたので、そちらの仕事はほどほどにして、自分のビジネスを軌道に乗せることを優先していました。

会社を辞めてよかったこと、今だから思えること

連載第5回にも書いたとおり、写真配信サービスのビジネスは、

  • お客さんが自分のスマホで写真を撮影
  • 写真配信サービスを通じて写真データをアップロードして、料金を支払う
  • 後日、プリントされた写真が自宅に届く

というもので、客単価は600円に設定しました。利益率は約50%なので、売上の半分が利益として会社に残ります。

もし、お客さんを毎月1万人集めたら、売上は600万円で、毎月300万円の利益が入ってくるという計算です。しかし、結果としてこのビジネスは失敗しました。

600円という単価は、僕の感覚では手頃な価格で、これなら利用者は自然と集まってくるだろうと考えていました。でもそれが間違いでした。お客さんを集めるためには宣伝が必要です。このサービスは単価が安いために、お金をかけた広告宣伝ができなかったのです。

この経験を通じて思い知ったのが、会社員としてやる仕事と、自分ひとりで始めるビジネスとの根本的な違いです。

会社員であれば、会社がこれまでに築いてきた「すでにある顧客」を相手に仕事をします。これに対して、独立してひとりで立ち上げたビジネスは、お客さんがいない状態から始めることになります。会社員であれば、すでにお客さんがいる状態から仕事を始められるのに対して、自分でビジネスを立ち上げた場合、当初は「お客さんを集める」ところから始めなくてはいけないのです。

会社……すでに一定の顧客基盤がある→集客コストが低い→薄利多売のビジネスが成り立つ
個人事業主……顧客をゼロから開拓する必要がある→集客コストが高い→薄利多売のビジネスは難しい

広告費をかけられない状況での集客はとても苦労しました。個人で最初に立ち上げるビジネスとして、単価が低いモデルは難しいと悟り、写真配信サービスには見切りをつけました。

単価が高い法人向けのサービスを立ち上げる

最初に立ち上げたビジネスがうまくいかなかったので、どうやって客単価を上げていこうかと考えたときに、個人ではなく法人向けのサービスがいいだろうと思い、とあるシステムを開発しました。そのシステムとは、ひと言でいうと「企業向け情報配信サービス」です。

このビジネスで工夫したところは、料金設定を開発費ベースではなく、作ったサイトを通じて得られた売上の一定割合をいただくという、レベニューシェアの形を取ったことです。法人相手であれば見込み顧客が限られているので、多額な広告費をかけることなく、毎月の売上を立てていくことに成功しました。

自分の仕事と並行して、株式投資はずっと続けていました。その中で、たまたま僕が投資をしていたミクシィ(2121)という会社の株が、2013年から14年にかけて大きく上がりました。そこで大きな投資リターンを得ることができたのも、僕が腰を据えてビジネスに向き合えた要因のひとつだったように思います。

【図表】MIXI(2121)の株価の推移(月足、2022年10月まで)
MIXIの株価の推移(月足、2022年10月まで)

自分のための投資が、他人のためのビジネスになった

僕が自分でビジネスをやるようになってから、ほかの経営者との交流が生まれて、経営者の先輩から食事に誘ってもらう機会が増えました。そこで僕が投資をしていることを言うと、「私にも投資を教えてほしい」という話になりました。

当時の僕は、他人に投資を教えるという経験はありませんでしたが、この話をきっかけに、月1回くらいのペースで投資の勉強会を始めることになりました。それが2014年から15年頃のことです。最初は10人ほどで始まった投資の勉強会でしたが、参加者は20人、30人と徐々に増えていきました。その評判を聞いた人から、講演依頼も来るようになりました。

投資コミュニティ
株式投資の勉強会が立ち上がり、やがてビジネスに発展していく(写真はイメージです)

もともと僕にとって、投資は自分の利益のためにやるものであって、「投資を教える」という発想は全くありませんでした。ほかの経営者との話を通じて、自分が投資をやってきた経験を知りたい人がいることに気付き、これはビジネスとして成立すると思いました。

投資を教える効率を高めるためにコミュニティを作る

一時期は、毎週のようにいろいろな場所に登壇して、投資の話をするようになりました。先ほどの法人向けウェブサイトなどのビジネスと並行して、投資の公演もひとつの事業として売上が立ち始めました。

こうして自分のビジネスが回るようになってきて、売上は増えたのですが、ここで別の問題に直面することになりました。あまりにも忙しすぎて、自分の時間がなくなったことです。僕が独立したのは、「お金と時間の自由」という目的のためです。時間の自由を手に入れるためには、ビジネスを軌道修正する必要がありました。

投資の公演
投資の公演で忙しくなり、自由な時間が減ってしまった(写真はイメージです)

投資の話といっても、今日話したことが明日になって大きく変わるわけではありません。それなのに、毎回いろいろな場所に公演に出向くのは非効率だと思いました。そこで、僕が話をする場所をひとつに集約しようということで、2017年7月に投資コミュニティ「ixi」を作りました。

コミュニティを作ってからは自由に使える時間がかなり増えて、最近では世界中を旅行するなど自分の時間を楽しんでいます。その後も投資コミュニティ以外の仕事を多少はしていたりもするのですが、世間で言うところのFIREという状態に近づくことができました。

時間とお金の自由を手に入れるためには、以前にもお伝えしたように、そこに至るまでの「時間の使い方」がものすごく重要だと考えています。次回は、「未来の自由を生み出すための時間の使い方」について、僕が考えていることをあらためてお話ししたいと思います。

遠藤洋今回のポイント

  • 独立したばかりでは、客単価が低いビジネスは難しかった。今の自分の状況に合ったビジネスモデルを選ぶ
  • 自分ひとりでは気づきにくいが、自分の経験も需要があればビジネスになる
  • お金だけでなく時間もほしいなら、働き方を効率化させる仕組みを作る

自由を目指すなら「タイムパフォーマンス」こそ重要

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